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第3章
4 僕の気持ちと俺の気持ち
しおりを挟む「はあ? 人の家のことも知らないで、情けないとはなんだよっ」
「情けないだろうが。中学生か、おまえは。『親に言われた人と結婚するので、恋はしません』とか、少女漫画でも流行らんわっ!」
「なんだとっ! 言わせておけば。おまえだって理想が高いとか言って、結局モテないだけだろうが!」
「なにをっ! モテてるわっ!」
酔いも手伝って、俺たちは馬鹿みたいに喧嘩をした。なんの解決にもならなかったけれど、隣の住人に怒られるまで、ドタバタと取っ組み合いをした。
「自分の気持ちを貫いて戦えばいいだろ? なんもしないで被害者ヅラしてんじゃねえよ!」
「黙れっ! 僕の気持ちを知りもしないで、良くもそんなことが言えるな!」
――――おまえにだって、俺の気持ちなんかわかんねえよ。
俺は既に、自分がゲイであることを認識していた。けど、まだ誰にも話したことはなかった。高校時代、いい感じになった友達はいたけれど、田舎のことだ。めったな行動はできなかった。すぐに町中の噂になってしまうから。
だから、このときも俺はすぐに自分の気持ちを言葉にすることは出来なかった。俺はずっと、宗志のことが好きだったなんて。同族企業の御曹司で、次期社長になることが既定路線のこいつに。
ここまで一気に話をしたら、さすがに喉が渇いた。空は水を持ってきてくれたが、俺は酒が欲しくなっていた。この後を話すには素面じゃキツイってもんだ。
「ハイボールがいいな。おまえも欲しければ飲んでいいぞ」
「僕はいいよ。まだ未成年だよ」
カササギは飲んでた気がするが……。まあいいか。空はキッチンから一式をトレイに乗せ戻ってきた。グラスには黄褐色の液体に細かい泡が浮かんでいる。氷の音がカラカラと耳心地の良い音がした。
外はすっかり暗くなっている。俺はなんだか顔を見られるのが恥ずかしくて、ベッドサイドのライトだけを灯す。部屋はぼんやりとした灯りのなか、スナックみたいな雰囲気になった。
「宗志さんには告白できたの?」
空は再び俺の隣に座る。今度はさっきよりいくらか近く、人一人分の間隔を空けて。
もし、あの日あんな事件がなかったら、俺は宗志に告白しなかったかもしれない。空の問いかけに微妙な笑みで応える。
――――俺はあの事件にずっと感謝していたけれど、あいつを失ってからわからなくなった。あのまま、お互いの気持ちを知らずに社会人になり、別々の道を歩んでいたら。今でもただの友達でいただろうか。
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