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第3章
3 恋バナ
しおりを挟む「久遠は卒業したらどうするんだ?」
あれはいつだったろう。宗志と俺の部屋で一杯飲んでた時だろうか。今まで避けてきた話題を、あいつは酔った勢いなのか聞いてきた。まだ1年生だったか、それとも2年になる頃か。
確か、まだ寒い時期だった。鍋を平らげ、こたつに埋まっていた気がする。
「俺か? 俺は経済を回す側に行きたいんだ。証券か銀行にまずは就職かな。けど、そこで終わるつもりはないからな」
「へえ……そうなんだ。威勢がいいな」
「俺はおまえと違って職業の選択ができるからな。社長になれるかどうかは能力次第だが」
「ふん」
宗志は鼻で笑ってビールを飲む。
「宗志、おまえ、なにかやりたいことあるのか? それなら……」
「ああ、僕の話はいいよ」
「なんだよ、振っておいて」
宗志は中途半端な笑いを俺に向ける。片方だけ口角をクイッと上げると、また一口。
「それよりさ。久遠は彼女作んないのか? この間もデートに誘われてたじゃないか」
――――え……。
俺の缶ビールを持つ手が止まった。宗志とつるむようになってから1年近くが経つが、どういうわけかこの手の話はしたことがなかった。
付き合いでいく合コンで出会う才色兼備の女子大生たち、当然のように宗志はモテた。当たり前だ。イケメンで有名企業の御曹司だ。女が放っておくわけない。
――――だが、こいつはいつもサラリとその誘惑を躱していた。そのうち、宗志には親が決めた許婚がいるのだとまことしやかな噂が流れ、大抵の学生がそれを信じた。かくいう俺もその一人だ。
俺はだから、その話題は今まで極力避けてきたんだ。あいつから言うならともかく、言わないのは理由があるのだろうと。それになにより、俺はその話題を宗志から聞きたくなかった。
「俺は理想が高いからなあ。現状では無理だ」
俺は宗志の顔を見ずに言った。そうさ、俺の理想は富士山より高いぞ。
「そうなのか? 僕とつるんでばかりいたら、その高い理想を越える人が現れても見逃すぞ?」
「あほか。俺の心配など無用だ。だいたいそっちはどうなんだよ。ま、婚約者がいるって言われても驚かないが」
俺は言いながら後悔していた。なんで言いたくもないこと言わないといけないんだ。おまえのせいだぞ、宗志。俺は……おまえの恋バナなんて聞きたくないんだ。
「僕か……。いや、まだ婚約者はいないよ。噂はただの噂だ。ま、僕は有難く思ってるけどね。おかげで合コン誘われなくなったし」
「そ、そうなのか」
ホッと胸を撫でおろす自分がいた。まさに滑稽だと思いながらも、俺は安堵していた。
「けど、いずれはどこかの誰かと……親が連れてきた人と結婚するんだろうな」
「それで……おまえはいいのか?」
「いいも悪いもない。考えたって仕方ない。だから恋愛はしないって決めてる。時間の無駄だ」
無駄……。そうなのか? なんでおまえは諦めてるんだ?
「なんだよそれ。おまえ、親の言いなりなんだな。情けない奴」
言わなくてもいいことを、また俺は言ってしまった。けど、なんだか妙にむしゃくしゃしたんだ。
もし、宗志にすごく好きな奴がいて、その人と結ばれるならそれでいい。俺もきっと祝福できる。
だけど、こいつは親が決めてきた誰かと、好きでもなんでもない相手と結婚するのだという。そのために、好きな人は作らないとか。恋はしないとか、なんだそれは。
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