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第2章
13 大事なとこ
しおりを挟む「冗談でも馬鹿げたことを言うな。許さんぞ」
ふん、と鼻で笑う音がした。それから椅子がきしむ音がし、カササギはモニターに映るグラフを眺める格好になった。
「空が大事? そんなに」
「なにを今更。おまえだって、空が大事だろう。ああ、言っておくが、おまえのことを無下にしてるつもりはない。俺は……」
そこで俺は言葉を飲み込んだ。一体、なにを言うつもりなのか、俺は。
「なに? 俺はなに?」
そんな俺の迷いを知ってか知らずか、カササギは俺のすぐ横に椅子を引きよせ腕を取る。
「うるさい。おまえ……」
ああ、そうだ。と、俺は思い出す。
「おまえ、納屋刑事と音信不通とか言ってたろ」
「え? なんで今それ話すの? 今大事なとこじゃん」
うるさい、誤魔化してるんだよ、そこんとこは。それに、こっちも大事なとこだ。
「いや、こっちも聞いておかんとな。おまえ、あの刑事と連絡取ってるだろ」
「えー、なにそれ、ヤキモチ? にしても、全然取ってないよ」
「嘘つけ。これ見ろ」
俺は先日鬼塚医師からもらったメモを見せる。
「納屋の番号かよ。それがどうかした?」
そっぽを向くカササギ。何かに気付いたか。俺はにやりと口の端を上げた。
「おまえ、この間この番号にかけてたろ。あの、カフェの出口であった時のことだ。バイト先の同僚とか嘘ついてたがな」
ぱちくりと見開いた目を2度3度瞬きした。そしてはあーと、長いため息を吐く。
「なんだよ、なんでそんな番号覚えてるんだ……」
「俺は数字だけは記憶力半端ないんでね」
ちぇ、と軽い舌打ちが聞こえた。
「あの時だけだよ。居場所が変わったから連絡しただけだ。それ以降は俺からはしてないよ。多分空もしてない。疑うなら携帯みればいい。鬼塚は、診察のたびにしてるかもしれないけど」
「ほんとかよ」
「本当だよ。えー、タカ、マジで嫉妬深いねえ。これは気をつけないと。貞操帯でも付けられそうだ」
「つけてやろうか?」
「あははっ! スケベなのは相変わらずだあっ」
カササギは大笑いすると、俺の膝に乗り、腰を落とす。あいつのあまり肉のない尻が腿に刺さる。
「いてえな……」
目の前では白い肌にネックレスが揺れている。あの、薄い傷跡も見え隠れした。
「ねえ。もういいだろ? 仕事なんかさ」
「なんかではない」
「はいはい。でも……」
カササギは腕を俺の背に回し、顎を肩に乗せた。体重はかからないようにしているようだが、少し重い。
「オレ、あんたのこと好きなんだ。タカも、さっきそう言おうとしたんだろ?」
俺の体がぴくりと反応したのを、カササギは気付いたろうか。
――――好きだ。
カササギの口から、そんな言葉を聞くとは思わなかった。自分の口からもこぼれるはずはないと思っていたその言葉。
そうだ。カササギが言う通り、俺はさっき、そう口走りそうになったんだ。俺はカササギをセフレのように考えていない。最初はそのつもりだったかもしれないが、いつしかそんな思いはなくなっていたんだ。
そうじゃなきゃ、気まぐれに現れるおまえを待ってなんかいない。性のはけ口なんかじゃないんだよ。
――――そしてそれは、更に重要なことを俺に知らしめる。
「オレは自分の気持ちをこんなふうにしか伝えられないから……」
言い終わるより早く、カササギは俺に口づけをする。俺の膝にのっているから、今はカササギの方が頭が出ている。俺の顎をその細い指で持ち上げ、俺の唇に吸い付いている。
何度も交わしたディープキス。それでもその時は、まるで俺の心ごと絡めとるかのように、熱くしつこいほどに求めてくる。息もつかせぬよう、俺が何も言えないように激しく。
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