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第2章
10 夢の中
しおりを挟む朝もやがかかったような、はっきりしない視覚。彼の姿は徐々にはっきりと意識にとらえることができた。
サラリとしたマッシュの黒髪に細面の顔。色白に頬を少し染めて笑う中世的な顔立ちが、俺とは対照的だった。
『宗志っ! ああ、おまえ、生きてたんだな。良かった。会いたかったんだ』
俺はあの頃と同じように、カラーシャツにデニム姿。髪も当時は長髪を束ねていたな。あいつは肌と同じような色の白っぽいパーカーを着てる。
『馬鹿だな、おまえは。はっきり見たろ? おまえの目の前で僕は死んだんだぞ。これは夢だよ』
笑みを浮かべていた俺の頬は引き攣る。そうだ。俺は知ってる。これは夢だ。おまえは、俺を残して命を絶った。
『そうだな。俺は馬鹿だから……』
『おまえ、あの二人どうするつもりなんだ』
『二人? ああ、空とカササギのことか。二人じゃない、一人だよ』
そんなどうでもいいことを、俺は宗志に説明している。大学を卒業して、ずっと一緒にいた宗志。俺の……愛した宗志。
『今はまだ二人だ。まさか、おまえあいつらを救えるとでも思ってるのか?』
『それは……』
そんな傲慢な気持ちでいるわけではない。俺はただ、あいつらが平穏な日々を送れるようになるなら、手助けをしてやりたいと……。
『どっちにするんだよ』
『どっち? どっちって……』
『二人を同時に愛せないだろ? おまえ、一人だって救えなかったのに』
『宗志、それは……』
『また見捨てることになるんじゃないのか?』
『ゆ、許してくれ。そう言っても仕方ないことはわかってるけど……俺は』
宗志は細い指を口元に持っていく。いつものあいつの癖だ。なにか言いたいことがあると、必ずそうやって唇をなぞる。
『なんだ……? なにか、言いたいこと、あるんだろ?』
俺は、恐る恐る尋ねる。
『いや、別に。ま、せいぜい僕とのことみたいにならないよう、頑張るんだな』
宗志はさっと踵を返す。途端に姿が霞んだ。
『宗志っ! 待て、待ってくれ、行くなっ!』
がばりと俺は起き上がった。宙をさまよう俺の右手。俺はがっくりと肩を落とす。視界が滲んでいる。今にも溢れそうな涙を慌てて拭うと、すぐそばに人の気配がした。
「あ……そ、空か? 起こしちゃったか……すまん」
ベッドの縁に、空が佇んでいた。心配そうな顔がダウンライトの仄かな灯りに浮かび上がる。
「大丈夫? ずいぶんうなされてたから」
そうか、俺はうなってたか。そうだろうとも。久々に見たあいつの夢だが、いつもこんなふうに責められる。あいつがどう思ってあの世に行ったかはわからないけれど、きっと俺を憎んでいたに違いない。
「大丈夫だ。ほんとに……」
「そう? カササギなら、気の利いたこと言えるかもしれないね。僕でごめん……」
え? 俺はハッとして空の顔を覗き込む。目が慣れて、はっきりとあいつの顔が見えた。苦しい気持ちを癒してくれる、憐みの表情。どこか諦めと切なさを同居させた少年の顔だ。
「空……っ」
俺はどうしてそうしたんだろう。すぐ手に届くところにいたからか。俺は温もりが欲しかったのだろうか。思うより先に、俺は空を抱きしめた。まるですがるようにして。
「や……やめて、離して!」
その細い声に、俺は我に返る。俺の胸に突き立てられた両腕の手のひらに青ざめ、さっと掴んだ腕を離した。それと同時に空が手を突く。俺は後ろに揺れ、空は慌てて自分のベッドにもぐりこんだ。
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