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第2章

9 レセプション

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 横浜での講演会。俺は空を帯同した。近場だし車で行くので、気分転換にもなると考えたんだ。

「こちらは、新しい塾生さんかなにかですか?」

 前夜のレセプションにも空を連れ出した。途中でカササギが出てくることも考えたが、あいつのほうが場慣れしてるだろうから不安には思わなかった。

「いえ、彼は現在俺のアシスタントですよ。頭の回転も速いし、料理も上手でね」

 今回の講演会は経済ウィークと銘打った、経済界の毎年恒例行事だ。
 講演するのは俺だけでなく、大学教授やベンチャー企業のトップなど様々。ここでは名刺交換のような無粋な真似をする輩は少なく、歓談が主となるので空を紹介しやすい。

「初めまして。潮崎空です」

 ジュースの入ったコップを持ち、ぺこりと頭を下げる。先日この日のために仕立てたスーツを纏う姿はまるで七五三。とても19歳には見えない。ま、初々しいってことでいいだろう。

「イケメンなアシスタントさんですね。さすが久遠先生、才色兼備な新人を探してくるなんて抜かりないわ」

 空の見てくれの良さに引かれたのか、女性起業家やジャーナリストたちが自然と集まって来た。空は飲んでもいないのに真っ赤な顔して応対している。

「お手柔らかに頼むよ。今夜は初陣なんだから」

 こういう世界を見るのも、今後のためにも悪くないんじゃないか。少しずつでも慣れていくだろうし。昨晩、鬼塚医師にも相談済みだ。答えは、積極的でないにしろ、やってみる価値はあるとのことだった。



 ホテルはツインルームを予約してもらった。さすがにシングルはちょっと怖かったのだ。カササギにしても、完全に目を離すのは危な過ぎる。
 レセプションの後半では、空は並べられた豪華な食事を興味深そうに眺め、味見するように真剣に食べていた。その頃にはようやく新参者に対する洗礼から逃れていたのだ。本来料理好きの空は、これからの食事に反映させるつもりだろうか。なら期待大だな。

「どうだった? 疲れただろう」
「うん、少し。でも楽しかった。連れてきてくれてありがとう。料理も美味しかったし」

 ベッドに寝ころぶと、大きく息を吐いた。俺の自己満足でもなく、本当に嬉しそうに口元には笑みを浮かべている。連れてきて良かったと改めて思う。空の病状はまだ回復の途上だ。長い戦いになるだろうと鬼塚医師からも言われている。
 だが、長いつきあいになるのなら、俺の右腕として成長もしてほしい。目標があるのは大切なことだとのお墨付きも得た。

 俺の講演は明日の午前中だ。だから飲みすぎには注意したのだが、空の動向や周囲の評価も気になって、知らず知らずのうちにかなりの量を摂取したよう。空と話している途中にもかかわらず、俺は意識を失うように寝入ってしまった。



 ――――おまえ、これからどうするつもりだ。彼らをどうするんだ。

 深夜。深い眠りについていた俺は、懐かしい声にふと意識が戻る。いや、それは正確ではない。これはまだ夢だ。夢の途中だ。俺は夢を見ていた。恐ろしくも悲しい夢を。



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