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第2章
7 二つのヤキモチ
しおりを挟むあの日、空は職場を追い出されたと言ってたな。行き場を探していたと。
「おまえ、前の職場で追い出されるようなことをしたのは、もしかしてわざとか?」
頭にふと過った考えを、俺はそのまま言葉にした。カササギは俺の腕の中で、わかりやすくぴくりと体で反応した。
「たまに、信用してた人間に裏切られることもある。あの店長もそうだよ。納屋が転勤になった途端、態度が豹変したんだ」
「納屋? ああ、おまえの愛人の刑事か」
「もう別れてるよ。あれ? ヤキモチ妬いてる?」
腕のなかのカササギが俺を見上げて、ヒヒヒと笑った。
「違うわっ!」
「いてっ」
店長は納屋刑事に恩があったのか、空を雇うのに二つ返事だった。だが、納屋が転勤で地方に行くことが決まると、空に迫ってきたという。
「そんときは、オレが出てきてうまく対応してやったんだけど。気に入らない奴だったし、長居は無用と逃げ出したんだ。それだけのことだよ。オレだって誰とでも寝るわけじゃないいんでね」
「納屋刑事とは、今どうなってんだ。別にヤキモチで言ってるわけじゃない」
嘘だ。普通にイラついてる。
「音信不通。あの人も忙しんだろ。ね、もういいだろ? こんな話……」
そんな俺の微妙な心情を無視し、カササギは顎をあげて俺にキスをせがむ。しかし、まだ聞いておきたいことが俺にはあった。
「待てよ。二度とあんなふうに空と対面したくないんだ。そこのところ、ちゃんとしてもらわないと」
「ああーー、まあわかってるよ、それは。もう、終わったらすぐ部屋に戻るよ。それでいいだろ?」
「う、まあ、そうだが」
「キスしてよ……ねえ……」
俺のすぐ目の前で、切れ長の瞳を長いまつ毛で閉じ込める。桃色に艶めく唇に、俺は魅せられるようにキスをする。ふくらとした唇を食み、それから舌を分け入れて、あいつの舌を探る。柔らかいそれを見つけると、存分に味わうよう絡み取った。
「んん……」
あいつが喉で呻く。俺の体温が上がる。さらに腕に力を込め、抱きしめた。
「ねえ、タカ」
「なんだ」
ようやく唇を離すと、カササギは俺の耳元に唇を寄せ囁く。
「空とのキスはどうだった? オレのより、感じた?」
俺は驚いてあいつを剥がす。どんな顔して言ってるのか、探るように睨みつけた。
「なにを馬鹿なことを言いだすんだっ。冗談にもほどがあるぞ」
「怒った? ごめん。ううん、いいんだ。オレ、ちょっとヤキモチ妬いたみたい」
ヤキモチだと? なんだそれは。
「意味わからんこと言うな。空は俺のことをそんな目で見てないだろうが」
俺は、あいつが俺を避けるんじゃないかと、本気で心配してたというのに。
「ふふん。冗談だよ、タカ」
非難の目を向けると、あいつはすぐに小馬鹿にしたようにくくくと笑い出す。
「オレを抱いて、タカ。ずっとご無沙汰だったでしょ?」
そして俺にしな垂れかけ、右手で俺の下腹部に手を伸ばす。手馴れた様子で動かしだした。
「あ……ったく」
俺はあいつの足を掬い、抱き上げる。
「ベッドでやれってば。それと、終わったらすぐ部屋に戻れよ」
「了解ー」
おどけてあいつは俺の首の後ろで両手を絡ませる。そんな仕草が俺の心をぎゅっと掴む。巻き毛にキスを落とし、俺は寝室へと向かった。
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