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第2章

1 秋の長雨

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 9月に入ると、雨の日が続くようになった。所謂、秋の長雨だ。湿気は嫌だが俺の生活にあまり支障はない。画面の前で仕事は完了するので、益々引きこもり状態になっただけ。

「タカー、まだ仕事してんの?」

 しかし、事情が変わったことが一つある。カササギだ。

「うるさいな。おまえ、暇なら昼メシくらい作れよっ!」
「えー。オレは空と違って家事は出来ないよ」

 薄々気付いていたことだけど、カササギは雨の日に出現することが多い。いつもというわけでないが、この長雨の時期、3日に開けず俺の前に現れるのではっきりした。
 しかも、あいつは自分で言った通り家事と名の付くものは一切しない。仕事中の俺にまとわりついて、艶めかしい素振りでベッドに誘おうとするから厄介以外のなにものでない。

「じゃあ、お湯を沸かせ。昼はカップ麺だ」
「マジで……またかよ。もう、勘弁してくれよ」

 それはこっちのセリフだ。

「なあ、どうしておまえは雨の日に出てくるんだ」

 ダイニングでカップ麺をすすりながら、向かい側で不貞腐れてるカササギに聞く。あいつは既に完食し、ポテトチップスを食べている。空はああいうスナック類はあまり好まない。なんで嗜好品まで違うんだろう。

「さあね。あいつ、根暗なくせに雨が嫌いなんじゃない。雨の日は気分が塞ぐみたいで、心の底に沈むんだよ。で、代わりに飛び出てじゃじゃじゃーん」
「あほかっ」

 テーブルの上にあった経済誌で頭をはたく。

「なんだよ、もう……。ね、3時には株式締まるんだろ? だったら……」
「世界は回ってるんでな。東京の次はヨーロッパだ。それに、そう何度も付き合っていられるか」

 俺は伸びてきた手をもう1度経済誌ではたいた。昨夜もあいつに誘われて……まあ、一方的ってわけじゃないけど。10代のガキじゃあるまいし、付き合いきれんよ。

「はあ、そうですか」

 カササギは舌をぺろりと出して部屋へ戻っていった。食器の片づけすらしないってどういうことだよ。

 ――――しかし、あいつも空の一部なんだ。空が作り出した人格。

 そう考えれば、空は家事なんか本当はしたくないのかもな。だから、カササギになったときは、一切手を出さない。

 ――――その辺のメカニズムは想像するしかないが。一度、鬼塚医師に聞いてみるか。メールでも構わないだろう。

 ついでに雨にカササギが出没しがちな謎も聞いてみるかな。なんとなく想像がついて、あまり楽しくない結果にはなりそうだが、知っておく必要はあるだろう。



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