18 / 96
第1章
17 体に聞いて
しおりを挟む講演会は無事終わった。客の反応も良く、まずまずの出来だったし人脈も増えた。上々の結果を土産に、俺は帰路につくことが出来た。
飛行機から降りたら、東京は雨だった。車の乗り降りでさえ濡れるのがどうにも好きになれない。特に足元。だから車移動がやめられない。
小雨の中、高速をひた走ること約一時間、最寄りのインターで降りる。意外に空いていたので、予定より早く帰れそうだ。
――――あれ? まさか……。
マンションへ帰るにはどうしても駅前を通らなければならなかった。待ち人やバスの横をかいくぐるように走らせる道すがら、俺は思わぬ人影に遭遇した。
右に左に雨をかくワイパー越しに、傘もささずにカフェから飛び出してきた、見慣れた風体。
――――カササギだ。
だらしなく着たシャツから細い肩が覗いてる。鎖骨には金のネックレス、耳にピアス。ワックスでワイルドに仕立てた髪型を見れば一目瞭然だ。
「全く、なにしてやがる」
嫌な予感しかしない。俺は携帯を操作するあいつのすぐ後ろまで車を走らせ、二度軽くクラクションを鳴らした。
「あれ? タカじゃん。わお、ラッキー」
「なにがラッキーだ。ここでなにしてる」
カササギは悪びれもせず、さっさと助手席に乗り込んできた。
「なにって、珈琲飲んでただけだよ。ずっと部屋に閉じこもってるのも健康に悪いじゃない。空は黙ってたら、何日だって引きこもるからさ」
確かに。空は生活用品の買い物以外はほとんど外出しない。それはカササギが突然現れるのを嫌ってるんじゃないかと俺は勝手に思ってたが……。
「おい、それ見せろ」
車に乗る瞬間、デニムのポケットにしまった携帯。俺は見逃していなかった。
「あれ、見つかってた?」
携帯は空に渡したものだ。あいつはスマホどころか携帯電話も持っていなかった。通信料を払う金なんてないんだから、持てるわけもないのだが。
俺は今回の出張を機に、あいつに携帯を渡した。もちろん俺との連絡用だ。毎晩連絡して無事も確かめていた。今朝だって、何時頃帰ると連絡したばかりだ。
「誰と電話したんだ。この番号は……」
「なんだよ。全く、疑い深いな。安心して、浮気はしてないから。こいつは前のバイトの同僚だよ。荷物送ってくれた。お礼も言ってなかったからさ」
「本当か?」
こいつが俺の他に男を作るのは、空のためによくない。それは嘘じゃないけれど。俺だって嫌だ。
突然、目の前にカササギが現れたからか、俺は胸の内にある嫉妬心を隠せない。カフェで誰かと会ってたんじゃないのか。会ってただけじゃなく……。
「今のオレにはタカだけだよ……それはあんたと同じだ。それにそんなに心配なら、家に帰って確かめればいいじゃん」
「え?」
「体に聞いてよ。無実を証明するからさ。だからさっさと帰って、やろうよ」
ハンドルを握る俺の手の上に、あいつは細い指を乗せる。カフェは冷房が効いていたのか、少し冷たい。
「そ……うだな」
「ふふ。そうこなくっちゃ。オレ、さびしかったんだよー」
運転する俺にしな垂れかかかる。珈琲の香りが鼻孔をくすぐった。
――――それは俺もだ。口には出せないけれど。
「わかった。じゃあ、隅々まで確認させてもらうとするか」
「ええ? めっちゃスケベな言い方―っ!」
ケタケタとカササギは笑い出す。俺の下半身は既に反応している。なんて正直な体だ。
「何とでも言え」
俺はアクセルをくんと踏み、家路を急いだ。
1
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる