上 下
8 / 96
第1章

7 鷹とカササギ

しおりを挟む

 仕事部屋の温度設定は他の部屋より2度低い。PCやモニターが並ぶ部屋は機械熱ですぐ暑くなる。高温は機器には天敵なので、冷房は欠かせないのだ。
 それでも数字やグラフを追ううちに額には汗が滲む。先ほどから降り始めた雨が蒸し暑さを部屋に呼んだ。深夜2時、今夜は海外市場に動きがあり、格闘はまだ終わらない。

 トレーダーの宿命とはいえ、地球が回っているのが恨めしく思うこともある。今夜は動かないと踏んで寝る日もあるが、目覚めてがっくりするのも珍しくはない。まあ、また取り返すチャンスはあるので、日々一喜一憂するわけじゃないけれど。

 空を拾ってから10日が経っていた。カササギはあれ以来出現していない。物足りない想いは否定しないが、空との同居は意外にも心地いい。俺にしては実に健康的で規則正しい日々を過ごせていた。

 ――――今夜はこれまでかな。十分収穫あったし、寝るか。

 一応、大きく相場が動いた時に鳴らすアラートだけスマホに設置し、俺はシャワーを浴びて裸のまま寝室に戻る。ベッドに体を埋めようと照明もつけずにダイブした。

「えっ! うわっ!」
「いってえ……。なんだよ」

 ベッドには先客がいた。俺は慌ててベッドサイドの読書用スタンドをつける。シーツにくるまっていた体をくるりと回転させ、柔らかな茶髪の前髪を掻き上げた奴は、きらりと光る双眸を俺に向けた。

「遅いから寝ちゃってた。お仕事ご苦労様」
「おまえ……カササギか」

 あざと可愛いセリフを吐いたが、空のそれとは似ても似つかない。

「ふうん、ちゃんと見分けつくんだ。偉い偉い」
「なに言ってる。おまえ、何しに来た」
「え? 何しにって、ナニしにに決まってんじゃん」

 さっとシーツを開け、白い裸体にショーツ一枚の姿をさらす。全裸にバスタオルを首にかけただけの俺の体は正直に反応した。

「ははっ。タカ、若いじゃん」
「うるせえっ! 大人を揶揄うな。大体タカってなんだよ」

 俺は照れ隠しに奴の頭をはたく。だが、心臓はドクドクと音を鳴らし、俺の心は既に決まっていた。

「呼び方なんてどうだっていいだろ? 鳥繋がりなんだから」

 ああ。どうでもいいよ。

「いいのか、おまえ……」
「ちゃんと空に宿と仕事を与えてくれたんだ。お礼しないとね?」
「お礼?」

 俺が戸惑いの表情を浮かべると、あいつはその細っこい両腕を俺の首に伸ばした。

「細かいことはいいじゃん。オレもやりたかったんだ……あんたも……だろ?」

 うなじに体重をかけ、俺を自らの体に導く。拒絶する理由はなにもない。そのまま俺はあいつの体に覆いかぶさった。

「そういうことなら……たっぷり礼をしてもらおうか」

 俺はあいつの誘う唇を吸いつくす。舌を絡ませ、足も腕も使ってあいつを絡めとる。

「あ……んん」

 俺の腕のなかで、あの夜と同様にカササギは身悶えし甘い息を吐いた。

 ――――たまらねえ……。

 俺はこの瞬間を待ってた。あいつの細い腰を両腕で持ち上げながら、はっきりと自覚した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...