カササギは雨の夜に啼く【R18】

紫紺

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第1章

5 身の上話

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 パスタを綺麗に平らげ、二杯目の珈琲を淹れるころまで、空の話は続いた。あいつの話を要約するとこうだ。

 多重人格の症状が初めて認識されたのは、15歳の誕生日の頃。15歳であんな男娼みたいなの出てきたらやばすぎるだろ。思った通り、空はすぐに補導された。だが、そこで様子がおかしいと気付いた刑事がいたのは空にとって幸いだった。

 取り調べ中、空はなぜ自分がここにいるのか全くわからなかったという。始めは芝居と取られたが、結局鑑定医に診せ、彼が多重人格障害を患っていることが判明した。
 精神科の治療を受けることになったのだが、それで一件落着とはいかなかった。

「投薬やカウンセリングで、状態は落ち着いていたんですが。僕の入院中に僕を引き取る人がいなくなったんです」
「え? いや、家族はどうしたんだよ」

 空は俯き、首をゆっくりと振った。少しだけ上がった口角は、まるで自分を嘲笑するようだった。
 最初の事件で精神科に入院したことで、両親は雲隠れしてしまったという。事件を担当した刑事にいくらか入った通帳だけは預けていたようだが、知らぬ間に引っ越し、音信不通になった。
 事件だけじゃなく、おかしな頭の病気になったのが、彼らには許せなかったのか。そりゃ、世間のバッシングや嘲笑があったのかもしれないが酷い話だ。

「それを聞かされた僕は、せっかく落ち着いていた症状がぶり返したみたいで。なかなか退院できなかったんです」

 結局、お金が尽きたところで無理やり退院した。それからはバイトしながらの日々だったと。親身になってくれたのは例の刑事で、住み込みの仕事を世話してくれたり、通院できる病院を探してくれたそうだ。

「その人とは、連絡取ってるのか?」

 これにも空は首を振った。

「いえ。今はもう。その人、カササギの愛人だったんですよ。それに気付いて」
「あ……ああ、そうなんだ」

 ずいぶんとハードな話だ。俺はダイニングテーブルからリビングのソファーに移り、足をテーブルに投げ出した。なんだか聞いてるだけで疲れてしまったのだ。

「久遠さんは、どことなく刑事さんに似てるんですよね」
「え? そうなのか?」

 こくんと形の良い顎を引く。

「がっしりとした体つきや、男っぽい……彫りの深い顔とか。カササギは面食いなんです」

 俺はなんと応じていいのか迷う。太い指で、鼻の横をぽりぽりと掻くにとどめた。


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