カササギは雨の夜に啼く【R18】

紫紺

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第1章

2 カササギと空

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「僕の名前は、潮崎空しおざきそらと言います。これ……」

 恐る恐る向かい側に座ったカササギは、リュックに手を突っ込む。ごそごそと引っ張り出したのは、昨今、国が熱心に作らせている身分証明書だった。

「え? ああ。本名か。いいのか? 本名バラして」
「はい……それは、その。大丈夫です」
「あのさあ。なんでそんな、借りてきた猫みたいなんだ? 昨夜、おまえは俺の腕の中で、アンアン言って……」
「そ、それは言わないでくださいっ!」

 カササギ……いや、空か。空は膝に乗せたリュックをぎゅっと抱き、身を小さくして首を振る。

「は? ああ……なんか、もうわからん」

 俺は馬鹿々々しくなって席を立つ。もうシャワーを浴びて帰ることにしよう。こいつとは、もうこれきりだ。少し、惜しいけど……。

「金はもう渡したからな、カササギの方にだが。まさか、おまえも欲しいって言うんじゃないよな?」

 あいつは前金だと言って、ベッドに入る前に要求したんだ。

「あ、待って。待ってください。お願いです」

 だが、どういうわけか、今度は空が俺を引き留めた。まるで捨て猫がすがるような目つきだ。俺はため息をついて、再び椅子に座った。

「なんだよ。言いたいことがあるならさっさと言え」
「僕は……カササギであって、カササギじゃないんです。あの、その、同一人物ではあるのですが……」
「なんだよ、二重人格とか言うんじゃないだろうな」

 どこかで読みかじったミステリーかドラマを思い出し、俺は吐き捨てた。すると、あいつは顔を上げ、ハッとした表情を見せる。

「おい……なんだよ。まさか……」
「そうです……。僕は解離性同一性障害……所謂、多重人格障害なんです。カササギは、僕の……もう一つの人格なんです」

 俺は呆気にとられ、口を開けたまま目の前にいる空を見つめた。あいつはもじもじと両手のひらを組み合わせながら、申し訳なさそうにうつむいていた。



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