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番外編 シャワーの後で
最終話 小泉京香の総括
しおりを挟む鮎川零の新シリーズ、「砂漠の月」第2巻、オアシスの盗賊編が無事印刷所に回った。あとは仕上がりを待つばかりだ。
思えばこの一年、このシリーズを成功させることだけを念じて頑張って来た。この先につなげていくためにも最初の二巻がどれほど大切か。それを鮎川がわかってるかどうか怪しいが、とにかく順調なスタートは切れたに違いない。
しかし、成功のためにと思って鮎川をセレブ御用達ジムに行かせたが、数々の私でも予想できなかったことが起こっていたよう。
もちろんそこには鮎川にとって理想的な殿方がたくさんいて、執筆に好影響をもたらしたのは期待以上の成果だったけど。それだけでは終わらなかった。
セレブにも下半身が節操なさ過ぎる不良セレブっているんだと、私は思い知った。そのうちの二人に、鮎川はまんまと捕まった。と言うと、まるであっち側だけが悪いみたいに聞こえるけど実際はそうではない。鮎川も列記とした同罪で、自分から行ってんだから世話はない。
これでまた、以前のように乱れた〇生活と傷ついた心で、執筆がピンチになるのではと心配したけれど、今回ばかりはそうならなかった。作品はより洗練され、息を呑むようなスピード感とキラッキラしたキャラ達の競演が眩しいほど。鮎川史上最高の出来だった。
その後の私の調査によると、どうやらこの二人の『不良セレブ』は、とびっきりのタマだったよう(タマとはちょっと下品だけどピッタリ)。
一人はなんと、旧公家の一つ、九条家の人間。しかもアライジャもびっくりするほどの筋肉イケメンだ。もう一人は、新進気鋭のIT起業家で天才と呼ばれる青年社長、ナギを彷彿とさせる人物だった。
さすがセレブジムと言いたいところだが、そういうのに惚れられる鮎川がさすがだと思わずにおれない。そのモテぶりの秘訣を教えて欲しいもの……いや、なんでもない。
三角関係に陥ってどうなることかと思ったけど、彼らの去り際はスマートだったとのこと。いやあ、余裕のある殿方は違うわ。
おかげで鮎川は彼らとの出会いと別れを『幸せな経験』に置き換えることができたよう。彼自身も、二人を傷つけたことにちょっとは反省したことだろう(そうであって)。
しかし、今回の騒動で、最も重要な役割を演じたのは他でもない。編集長の幼馴染であるジムの経営者。舞原氏の御子息だった。
こればかりは驚くしかないのだが、鮎川たちが演じてきた顛末の全てを見守り、最後にはあっさり漁夫の利よろしく鮎川をかっさらっていった。
ただ、彼はどうやら鮎川零のファンでもあるらしく、彼を傷つけることはしなさそう。真面目に鮎川を愛してくれているようだ。
紆余屈折があったにしろ、やはり私の作戦は成功裏に終わった。うん、やはり最後は正義が勝つな。さすが、私。
完・鮎川真砂を取り巻く人々
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(おまけの一コマ)
とある水曜日。トレーニングを終えた僕は、ジムのフロアで舞原さんを掴まえた。
「ねえ、舞原さん、小泉さんになにか言っただろ」
「え? なにがです? 確かにこの間、訪ねてみえましたけど……鮎川が色々お世話になってましてって。ククッ、鮎川さん、彼女には頭あがんないんでしょ」
あがんないよ。未来永劫それは間違いない。
「なんか、色々勘違いしてたよ。九条さんと神崎さんが、とってもスマートに僕と別れたとか。あんな痴話げんかしてたのにさ。それに、舞原さんのことすっごく褒めてた」
「それは……お二人は今でもこのジムの上得意様ですからね。多少は美化しないと……。それに僕のこと褒めてたのは悪くないでしょう」
「それはそうだけど……」
なんか自分だけ困ったさん扱いされて面白くない。
「そんなふくれっ面しないで。僕、もう今日は上がりだから……今から可愛がってやるよ?」
え……そんな急に営業モードからドS彼氏モードになられたら…………キュンってなるやん。
「う、うん……」
「じゃ、さっさと行くぞ」
耳元で短く囁かれた。誰も見てないかな。そんなことを気にする間もなく、ぐいっと手首を掴まれ足早にフロアを進む。行き先はもちろん、例の場所だ。
頬の筋肉が緩んで来ちゃう。今日もまた、とろっとろに溶けそうだよ。
終わり
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