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第79話 惚れっぽい性癖

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「今日はおひとりで浴びてください。残念ですけど」

 ウィンクのあと、さすがに自分でも照れたのか、そう言い残してさっさとその場を去って行った。僕は茫然としてその後姿を見送る。

 ――――僕を喜ばすって……つまり……そういうこと。だよな?

 要約すれば、舞原さんは僕のことを好きだからずっと担当を続けてたってことだ。
 思ってもみなかった。でも告白されたからって、今すぐ舞原さんのこと好きになるほど僕も惚れっぽくはない。
 今までずっと無害な好青年のように思ってたし。そりゃ、時々不思議な魅力を醸し出すので、『ロミオ』なんてキャラも誕生した。

 ――――けど、さすがに恋愛対象には……。

 汗が冷えてきた。僕はのそのそと立ち上がり、シャワールームに向かう。舞原さんが言う通り、一人でシャワーを浴びるために。

 キュっと音をさせてノズルを捻ると、温かい湯水が霧のように吹き出す。冷えてしまった体を温め、乾いて肌に貼りついてた汗を綺麗に流してくれる。普通に使っても、シャワーはやっぱり気持ちがいい(それが普通)。

『あなたを喜ばせようと思ってました』

 ついさっき、舞原さんから放たれた言葉を反芻してしまう。なんか、凄く恥ずかしい。彼は、僕が二股かけてるのも知ってたんだよな。それに、九条さんや神崎さんがどういう人かも、きっと知ってた。

 ――――それにしては、二人のこと持ち上げてたじゃないか。あの時、彼らは手癖が悪いとか教えてくれてたら。

 いや、そうだとしたら余計気になっただろうな。僕のことだ。その辺も彼は承知してたのかも。やっぱりあいつは僕のストーカーだよ。

 ――――もし、今この扉を開けて、彼が入ってきたら。

 鍵しめてんのにそんなわけない。でもついつい妄想してしまう。

 ――――あかん。何考えてんだよ……。

 頭からシャワーを被って左右に振る。水しぶきがシャワー室に舞った。

『惚れっぽいのは、私が横取りしたい性癖と同様、治りにくいもの』

 神崎さんが言ってたな。こりゃもう、しょうもない。それでも出来る限りこの性癖に抗いたい。神崎さんと言えば……。

『案外近くにいるかもですよ。その、誠実な人』

 なんてことも言ってたな。それ、まさか舞原さんのこと? いやいや、なわけ……。

 こんな自問自答を繰り返し、僕はずいぶん長シャワーになってしまった。
 最初に投げかけた質問について、結局、舞原さんはその日教えてはくれなかった。その答えがわかったのは、それから数日後のことだ。



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