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第77話 虚構の愛
しおりを挟む僕のコアなファンだと判明した舞原さん。考えてみれば、僕の両親や友人以外で、真のファンと親しく会話するのはこれが初めてだ。
「新作はどうだった? 面白かったかな」
今頃、感想を聞いてしまった。
「もちろんですよっ。今までのも大好きでしたが、今回のは最高でした。続きが早く読みたいですよ。いつですか? 続編は」
「そ、それはまだ僕だって知らないよ。でも、そうか、ありがとう」
「特にキャラが素晴らしかったですよ。アライジャもナギもキャラ立ちしてて、すぐ引き込まれました」
「あ……そう」
そこは深く突っ込めない。僕は不自然に視線を逸らす。
「このジムが役立ったみたいで光栄です」
ゲッ。そう来たか。どう答えていいか迷い、僕は曖昧な笑みで返してしまった。
「残念でしたね。お二人とのことは」
曖昧な笑みが固まる。目の前のツーブロックの若者は、さっきまでの能天気な表情を一変させた。
「見てたろ? あの見事な痴話げんか。正直僕はときめいてたよ」
「へえ。さすがです。なんちゃって」
クスクスと、意味ありげに舞原さんは肩を揺らす。あ、またなんか変な雰囲気になってきた。時々彼が見せる、セクシーな素振り。僕は人知れずドキリとする。
「そうだと思ってました。彼らも外道だけど、その二人を操ってたのは実は鮎川さんですよね? もちろん無自覚だとは思いますけど」
きらりと光る瞳。その言葉の意味も僕を驚かせたけれど、彼の豹変する表情に思わず見入る。
「外道なのは、十分承知してるけど……操ってたわけではないよ。ああ、そうか。まさかと思ってたけど、今回のこと、舞原さんが噛んでるってわけか」
なぜ、あの日突然九条さんが現れたのか。それを疑問に思わなかったのが、今となっては不思議だ。
いずれ終わりが来ると知っていたから、その日があの日だったと思っただけだった。
「あ、バレました? だって、僕の大切な鮎川さんが、これ以上あいつらに食われるのは我慢できなかったんでね」
悪びれもせず、舞原さんが白状する。白状というより、隠す必要もないとばかりにバラしてるんだ。
崩した足の膝を立て、そこに筋肉の張った腕を乗せる。こうしてみると、こんなにガタイが大きかったかなと思う。
「はっきり言うね。余計なお世話とは思わなかった? 僕は黙っててと言ったはずだ」
そうは言っても、何故だか腹が立たない。
「どちらが最善か、自分なりに考えました。もう潮時だったと思ってたので」
違いますか? そう問われて、僕は異議を唱えることができなかった。彼らを好きだったし、彼らとの関係は楽しかった。でも、全てが嘘と裏切りの上に成り立っている虚構の愛だ。
ただ……。
「年下の君に言われるとか、世話ないな」
たった二つ年上なだけで、僕はカッコがつかないのがなぜか癪だった。
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