シャワールームは甘い罠（R１８）番外編追加しました！

第６０話 I miss you.

　日曜日の夜、九条さんがマンションにやってきた。火曜日はジムの後忙しいからとのこと。そんなふうに僕との時間を作ってくれるのは素直に嬉しい。

「真砂、この辺もいい感じになったな。腹筋も綺麗だ」

　ベッドの上で僕の腕や胸、それにお腹を触りながら九条さんが言う。

「ホント？　九条さんにそう言ってもらえたら嬉しい」
「家でもやってるのか？　トレーニング。週一じゃあ追いつかないだろ」

　ギクッ。そうだった。九条さんには週に２回ジムに行ってるの言ってなかった。別に言ってもいいんだけど、金曜日に行ってることがわかったらまた面倒なことになりそうだ。

　――――九条さんも神崎さんのこと絶対意識してるよな。雑誌隠しておいて良かった。

「う、うん。腹筋とか、自宅トレーニングの動画見たりして頑張ってる」
「そうか。それ、俺もやってるぞ」

　言いながら、九条さんは僕の体に覆いかぶさって来た。

「正直、ぷよぷよした腹はマイナス点だったから、今は大満足だ」
「あ……う、うん……」

　大満足の腹のあたりを九条さんの舌が這う。そのうち、もう少し下に下がってって……。

「は……ん……」

　九条さんの短くなった髪に指を絡める。その瞬間、いくつものスパークが弾け飛んだ。




　九条さんのスマホが振動してる。僕はその音でふと目が覚めた。彼はまだ僕の隣で爆睡中だ。１１時過ぎてる。そろそろ起こさないといけないかな。

　――――電話？　いや、メッセージか。

　ポップアップされる文字が英語だ。海外からのメッセージのようだ。

　――――あ……そうか。

　僕は英語はからきしだけど、さすがにこれくらいは読める。『Ｉ　ｍｉｓｓ　ｙｏｕ』会いたいよ。あの彼かな。
　あの時も英語だったから、フランス人じゃないのかも。それとも、九条さんがフランス語駄目なのかもしれない。

　そんなどうでもいいことが頭に回る。愛してる。連絡待ってるよ。何度も画面が光る。もういい加減にしろよ。九条さんは寝てるよ。僕と……。

　わかってたけど、目の当たりにするとやっぱり切ない。自分のこと棚に上げてなんだよって言われても。

「う……ん」

　あ、九条さんが起きそうだ。僕は慌てて寝たふりをする。スマホの画面、盗み見してたのがバレちゃう。
　耳だけダンボにして寝たふりをしてる僕の背中で、もそもそと九条さんが体を動かした。スマホを手にしたのが雰囲気でわかる。小さなため息、それからなにやら返信したようだ。

「真砂、真砂？　俺、もう帰るよ」

　日付が変わりそうだけど、明日は仕事なので泊まれない。

「あ、う、うん。見送りする」
「いいよ。寝てて。おやすみ。俺の真砂……」

　九条さんは僕の鼻の頭にキスを落とす。それから軽く口づけ。僕を覆っていた熱が剥がれていく。すっと空気が冷たくなる感覚。

「気を付けてね」

　ラフなスェット姿の九条さんを見送る。ドアの向こうには、もう僕ではない誰かが待っているのかもしれない。玄関の扉が閉まるのを、じっと見つめる。
　カチャリと鍵の音がしてから、僕は胸の中にあった重い空気を吐き出した。