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第57話 侮れない男

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 発売までひと月となったある日、都心の有名書店にこっそり(別に堂々と入ればいいんだけど)入った僕。
 ラノベの棚に行く前に度肝を抜かれた。なんと、吊り下げポスターに『砂漠の月・旅立ち編』がでかでかと載っていた。構文社のポスターだけど、アライジャのめっちゃカッコいい姿と剝かした笑顔を見せるナギがこれでもかって迫ってくる。

 ――――なんちゅうカッコいいんだ。

 画像では見てたんだけど、実物の勢いは本当に凄い。ポスターには『鮎川零』の名もしっかり刻印されている。
『第十回新人賞作家、満を持して書き下ろし長編出来!』なんて煽り文句もなかなかのものだ。

 実はこの書店、来月サイン会をするところなんだ。行ったことのない書店だったので、下見に来た。小泉さんには内緒。
 キョロキョロ見渡すという相変わらず不審な動きをして、所狭しと並ぶ棚を縫うように歩き回った。

 ――――多分、サイン会はあのあたりでやるんだろうな。

 レジの隣に書店の特集コーナーがあった。あの棚をずらしてサイン会コーナーを作るのだろう。たくさん人が来てくれますように。僕はこっそりポスターに向かって手を合わせた。

 何か買って行かなきゃという妙な強迫観念に襲われ、僕は何冊か興味のあった書籍を手に取った。さてレジにと思ったところで、雑誌の棚に吸い寄せられた。それは……。

 ――――神崎さんだ。うわあ、こりゃモデルも真っ青だな。

 ビジネス雑誌の棚(僕が全くそそられない棚)だ。そこに、表紙を飾る神崎さんの姿があった。
 若手社長特集の雑誌の表紙、神崎さんがオフィスと思われる場所のデカい机に凭れてる。大きな写真ではないけど、モデルと言われても全然違和感がない。いや、写真からでも迸る貫禄や知性は、経営者たるものか。

 ――――この間のインタビューとか取材が載ってるんだな。

 僕は迷わずレジに運んだ。




 金曜日のジム。この日もジムが終わってから神崎さんとデートすることになってる。九条さんが帰国してからは、ジム内ではほとんど会話をしないことにしてたから、予め連絡をとっているんだ。
 妙にアンテナが高い舞原さんに嗅ぎ付けられても困るからね。

「最近、神崎さん、鮎川さんに絡んで来ませんね」

 それを知ってか知らずか、舞原さんがアブベンチでヒイヒイ言ってる僕に言う。

「そう……? 九条さん、とのことを知って、無駄だと思った、んじゃ、ない」

 このしんどい時に喋らすなよ。

「あ、いいですね。腹筋しながら声を出す。いいトレーニングだ」

 なに言ってんだよ。

「そうですねえ。ちょっと神崎さんらしくない……いや、らしいのか」

 ギクッ。やっぱり舞原さんは侮れない。物事の核心を突いてる。実は、あの雑誌を読んで僕も思うところがあったんだ。

「まあいいや。あ、そうだ。九条さんと言えば、鮎川さん、鮎川零っていう小説家知ってます?」
「えっ……」

 な。何をまた唐突にっ! 思わぬ舞原さんのぶっ込みに僕はうろたえる。アブベンチの底。僕は再び頭を上げることが出来ないくらい動揺した。




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