シャワールームは甘い罠(R18)番外編追加しました!

紫紺

文字の大きさ
上 下
46 / 93

第45話 もう戻れない

しおりを挟む

 シャワー室にある小さな鏡に向いて、僕は髭を剃る。無精ひげと言っても、産毛の親分みたいなのがポツポツ顎に生えてるくらいだけど。

「剃れた?」

 横の脱衣所から、スゥエットを腕に通している神崎さんが声をかける。

「うん」
「やっぱり、つるつるしてる方がいいね」

 鏡の僕の顔を覗き込む神崎さんの姿が映る。なんだか恥ずかしくなって俯いた。

「なんで俯いてるの」

 剃ったばかりの僕の顎に、神崎さんの手がかかる。ぐいっと無理やり? 上を向かせた。

「んっ……」

 思った通りのキスが降って来る。ほんの数分前まで、僕らは狂ったようにお互いを求め合った。あのキスから……。


『嫌だ……やめて……』

 熱いキスに当惑する間もなく、神崎さんは僕を個室に押し込んだ。そんなのわかってたことだし、僕も既に受け入れてた。

「黙って……もう何も言わなくていい。悪いのは私だから」

 汗で汚れた衣服を脱ぎ捨て、二人ともシャワー室になだれ込む。興奮も愛憎も背徳の想いも、熱いシャワーが全部洗い流してくれる。そんなわけないのに、僕は温度調節ももどかしくシャワーの水栓を捻った。

「好きだ。カードを手渡した時から、心奪われてたんだ」

 湯けむりが個室を視界不良にする。濡れた肌を重ね合わせながら、神崎さんが耳元で囁いた。

「嘘……ばっかり……」

 呟くような抗議の言葉を、唇でふさがれる。背中に回した腕が想像したよりもずっとがっしりしてた体を感じてしまう。

 ――――悪いのは……僕だ。

「あ……あ、んん」

 神崎さんの愛撫に僕は翻弄される。翻弄されながら、気持ちいいって思ってしまったんだ。




「お腹空いてるでしょ」

 身支度を済ませ、僕らは駐車場に向かった。エレベーターの中で神崎さんが尋ねる。実を言うと、トレーニングが終わった時からお腹が鳴っていた。

「そうだね。このところ、ろくに食べてなかったから」
「じゃあ、お腹に優しいものを食べに行こうか」

 僕は素直に頷いた。『優しいもの』。その言葉は僕の心を揺さぶっている。欲しているものでありながら、求めてはならないとも思う。

 ――――九条さんが浮気をしたからって、僕もしていいわけじゃない。罪悪感も当然ある。

「いいね。行きたい」

 それでも……僕は神崎さんの言葉に微笑を返す。もう戻れない。今の僕には、彼が必要だ。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

サプライズ~つれない関係のその先に~

北川とも
BL
上からの命令で、面倒で困難なプロジェクトを押し付けられた先輩・後輩の間柄である大橋と藍田。 大らかで明るく人好きする大橋とは対照的に、ツンドラのように冷たく怜悧な藍田は、互いに才覚は認めてはいるものの、好印象は抱いてはいなかった。しかし、成り行きで関わりを持っていくうちに、次第に距離を縮めていく。 他人との関わりにもどかしいぐらい慎重な三十半ばの男同士、嫌でも互いを意識し始めて――。 表紙イラスト:ぬるめのおゆ。様

処理中です...