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第41話 画面の向こう
しおりを挟む小泉さんによると、アニメ化やドラマ化する人気作品は当然引く手あまたでガチな取り合いなのだそうだ。
人気のあった過去作を狙うこともあるが、やはり現在進行形の新鮮な作品は注目度が高い。なので、これと思った作品には出版社から打診することもあるらしい。
そこはうちの編集長の力量、業界の古狸みたいな人だから、顔は利く。
『もちろん、作品にそれだけの力があり尚且つ、売れることが前提ですけど』
「そりゃそうだよね」
『なに弱気な声出してんですか。絶対大丈夫です。私が言うんだから、それに構文社ラノベ部門が勢力を挙げて推すんだから。先生は最後まできっちり書いてください』
そう太鼓判を押され、木に登る豚のごとく高揚した。しないわけがない。
「わかりました。もう最終章に取り掛かってますのでご安心ください」
僕は自信満々にそう答えた。
――――そうか……。うまく行けば、僕の作品がアニメに。
今はネットテレビで多くの人気作がアニメ化されて配信されてる。そうは言っても、たくさんの小説の中では氷山の一角に過ぎない。
――――素直に嬉しい。よし、今度こそ九条さんに報告しよう。
そう決意したが、今パリは夜中。あと四時間くらい後ならちょうど起きる頃かな。
――――よし、それまで続きを書こう。あと四時間もあれば完結できるぞ。
やる気満々の僕はPCの前に向かう。忘れずにアラームをセットして。
『おいナギ。そんなつまらなさそうな顔するなよ』
『そうは言うが、アライジャ。結局木の木阿弥になったんだぞ』
不満そうに少し薄目の唇を歪め、トパーズのような黄金の双眸をアライジャに向けた。
『なんでさ、いいじゃないか。俺は嬉しいぞ。これからまた、おまえと旅を続けられるんだからな』
豊かな黒髪をさっと掻き上げ、アライジャが笑う。その笑みに釣られるようにナギも笑い出した。
『全くだ。そう思えば、こんなつまらない結末も満更でもないな』
二人は腰を下ろしていた大岩から再び立ち上がり、目の前に広がる雄大な砂漠に足を踏み出す。
新たな旅路を祝すように、満天の星空には真っ青な月が燦然と輝いていた。
完
読み直してる途中で、セットしていたアラームが鳴った。まだ全て完了というわけではないが、とにかく恰好はついた。この安堵感のまま、電話しようっ!
通常、僕から電話することはない。けど、こんな時はいいよね? パリ時間、朝の7時。九条さんから仕事行く前にいつもかけてくれる時間だ。
僕はドキドキしながら九条さんの番号を出し、電話マークを押した。ややあって、呼び出し音が聞こえてくる。プツッと音が途切れ。
『どうしたあ。真砂から掛けてくるなんて珍しいな』
「あ、おはよう、九条さん。ごめんね……」
『謝ることはないよ』
いつもはパッと画面が明るくなって九条さんの男らしくイケメンの顔が見えるのに、なぜか画面は暗いままだ。
「あれ……九条さん、映らないんだけど」
ビデオのボタンを押し忘れてるのかな。
『ん? 映らない? 変だな。ちょっと調子悪いか? ボタンは押してるんだが』
困惑気味の声が聞こえてくる。顔見たいけど……まあいいや。もう話したくてウズウズしてる。
「話してるうちに映るよ、きっと。あの、電話したのは報告したいことがあって」
僕は慌て過ぎて前のめりになってしまったけど、九条さんはスマホの向こうで待っていてくれている。
『どうした? 聞いてるぞ?』
「あ、うん。実は今度の新作、アニメになるかもしれないんだ」
『えええっ! 真砂のラノベが? マジか。それは凄……おいっ、No! Stop!』
え……? 突然の英語、それから九条さんじゃない声。サッと画面が明るくなった。
「九条さっ……ん」
そこにはベッドの上で慌てる九条さんと……金髪青い目の青年の姿があった。
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