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第40話 差してきた光
しおりを挟むそれから一週間は、いつもながらの日々だった。僕は迫る締め切りに戦士のごとく挑み、なんとか完成まで目処がついた。これも小泉さんのおかげだよ。
そんな多忙な中でも火曜日、金曜日はジムに出かけて汗を掻いた。このリズムが執筆にも好影響を与えてると僕は信じて、徹夜明けでも構わず行った。
九条さんとも変わりない。二日おきくらいには電話して、2回に1回は妖しい電話になった。
意外だったのは神崎さんだ。金曜日にジムで会っても、必要以上な絡みはなかった。エアロバイクを並んで漕いで、世間話をするくらい。
若き社長である神崎さんは、業界では有名人。何とかっていう経済雑誌に、今度掲載されるとのこと。ジムで写真撮影もあるんだって。
「皆さんに迷惑かけちゃうから、早朝に撮影なんだよ。鮎川さん、来ない? 現在のパートナーって紹介してもいいよ」
「ご遠慮します」
ぐらいの軽口は叩いたけれど。
『鮎川先生っ! やりましたよ!』
まさに最後の章に取り掛かっていた僕に、小泉さんが興奮気味に電話してきた。
「ど、どうしました? 小泉さん。なにかやったんですか?」
『そうですよ。新作の連載決定。それで今月のイチオシに決まりました』
「あ、はい。ありがとうございます!」
それは大体決まってたこと。もちろん、編集長にアカンと言われる可能性もあったけど、ここまで来てそれはないだろうと自分勝手に目論んでいた。小泉さんの構文社における存在感を僕は過大評価していないつもりだし。
――――けど、こんなに嬉しそうなのは、僕が思っていたほど簡単なことではなかったのかもしれないなあ。
『ふふふ。先生、なにをそれくらいで興奮してるんだ。って思ってるでしょ』
「え? ……いや、まさか。そんなことは……」
なに? なにかまだ他にあるの? 見えてこない話に、僕の心臓は必要以上に忙しなく打つ。
『実は水面下でアニメ化の動きがあります』
「は? いや、小泉さん、それはないよ。まだ発売もされてないのに」
そんな絵空事で、僕をぬか喜びさせないで欲しいよ。けど、耳の向こうで小泉さんが鼻で笑ったのがわかった。
『編集長に今までの原稿読ませたんですよ。めっちゃ気に入ったみたいで。もちろん、売れてからの話ですが、私は自信あります』
「そ、そんな……」
そういう世界は、僕にはまだ遠い別世界だと思っていた。まだまだ底辺のラノベ作家だと。
それが突然、大きく扉を開け、眩しい光が差してきたように感じた。
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