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第16話 真っすぐな反応
しおりを挟むエアロバイクの後、ただシャワーを浴びるだけというなにか忘れ物したような気持ちのまま帰宅した。いや、シャワールームは、ただシャワーを浴びるとこだけどね。
そして早速アライジャの相棒、ナギのキャラクター構成に取り掛かった。頭のなかで、今日見た神崎さんの印象や会話を思い出し、それらを元に色々と膨らませていく。
『綺麗な手ですね。将棋指しのような』
ふと、あの時の彼の眼差しを思い出す。『将棋指し』なんて、日常であまり使わない単語を言われて驚いたけど。あの瞬間の神崎さんの眼差しは、なにか子猫でも愛でるような、そんな優しさを感じた。
――――まあ、子猫は言い過ぎか。彼からしたら、僕は類人猿並み(の脳みそ)なのかも。
じゃあ、子猿を愛でるような……いや、これはあまりに失礼か。
ナギも周りの人間が馬鹿過ぎてウンザリしてるんだ。けど、アライジャは彼の想像を遥かに超えた人物で……。馬鹿だけど、心の器が大きくて、粗野だけど情が深い。そんな彼に惹かれて苦難の旅を共にし支えていこうとするんだ。
『私がいないと、おまえはなにも出来ないだろ?』
『なに言ってやがる。それは俺のセリフだよ。黙ってついて来い』
なんて言い合ってる。それを他の仲間がニタニタしながら見てて……。なんかいいな、この風景。読者様方にも感じてもらいたい。激しい戦いの後にはヘロヘロになりながら、二人で砂漠の月を見上げたりして……。いやあ、絵になる。
実際の九条さんと神崎さんはお互いのこと知らないのかな。通う曜日が違って、会ったこともなさそうだしなあ。
『仕事中か?』
その日の夜、九条さんから電話が。大体一日おきくらいにあるんだけど、今夜は昨夜に続いてだ。電話でも低くてよく通る声が耳に届くと、デレちゃって胸がどきどきする。
「大丈夫です。休憩中だから」
嘘だ。でも、今ちょっと煮詰まってたからちょうどいい。
『声が聞きたくなって……でも声を聞くと顔が観たいな。カメラしてよ』
毎回こうなる。嬉しいけど緊張する。仕事場ではビデオ会議もやるので、それ用のスペースがある。要するに背景に何もなくライトニングを設置してるとこ。そこにいそいそと移動し、ビデオ通話。
『あ、今日も可愛い』
ひゃああ。そういうあなたは滅茶苦茶カッコいいですーっ。バスローブみたいなの着てるけど、胸元が開いてて目のやり場がぁぁぁ……もちろんガン見するけど。
それからいつものように取り留めのない話をする。ほぼ毎日話してるけど、どういうわけか話題は尽きない。
『ああ、駄目だ。顔を見て話すと今度は抱きたくなる』
と、これまたいつも通りのセリフだ。僕だって……この小さな画面の中に入り込んで九条さんの元に行きたいよ。
「火曜日まで……まだあるね」
なんて、寂しげに言ってみる。いや、ホントに寂しいんだけど。
『……今からそっち行っていいか?』
え……っ? その真っすぐな反応に僕はややビビる。でも……。
――――そういうとこなんだよ……九条さん。
「九条さんさえ良ければ……」
スマホの向こうにいる僕の大好きな人は、既にバスローブを脱ぎ捨て黒シャツのボタンを嵌めていた。
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