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第11話 ドライブデート

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 約束したドライブデート。
 車にはあまり興味のない僕だけど、洗練されたデザインと地を這うような乗り心地はさすが高級車と感動する。それに、隣に好きな人がいるのだから特別感増しましだよね。

「執筆はどう? 電話では順調そうだったけど」

 前回のランチで、僕は自らラノベ作家であることを明かした。本音ではあまり言いたくなかったんだけど、嘘ついても仕方ない。九条さんは驚いて、『凄いじゃないか』と全然凄くない僕を持ち上げてくれた。
 それから時々、電話やメールをもらって……仕事のことも気にかけてくれてた。

「はい。担当からも褒められてて……締め切りはまだ先なんですが、恐れずにやれそうです」

 いつもなら締め切り前に缶詰されて、それでもなお筆が進まない恐怖と闘わなければならない。もちろん、今回も最後にはそうなる可能性あるけれど。

「俺のおかげだったりして?」

 あっ、鋭いっ。僕は『その通りですっ』って言おうと口を開いた。

「いや、ごめんごめん。なわけないよな。自意識過剰だった」

 左手にハンドル、右手で僕の頭をごしごしと撫でる。筋の通った鼻は前を向いたままだ。

「いえ……九条さんのおかげです。心も体もウキウキしちゃって、不思議なほど捗るんです」

 主人公のモデルが九条さんだとはさすがに言えない。
 九条さんはラノベの存在すら知らない専門書オンリーの人だったから、今後も読まれることはないだろう。敢えてでもないけど、ペンネームの『鮎川零』も教えなかった。

「ホントに? ああ、でも俺も仕事捗ってるんだ。いいアイディアがどんどん生まれてさ。人間って単純に出来てると思った」

 それでも、『自意識過剰』なんて表現してくれた九条さんが愛おしい。シャワータイムでは俺様で責めてくるけど、普段は優しい気配りの人なんだ。
 それに、自分も仕事捗ってるって言ってくれた。僕と付き合いだしたからなら、本当に嬉しいな。

「あ、駄目だ……」
「どうしました?」

 今日の目的の場所は、九条さんお勧めの山の中のレストラン。都心を離れて一時間以上走ってるから、もうそろそろ着くはずなんだけど。
 カーブを交えながら上へ上へと上がっていく道路の途中、九条さんはふいに道路わきの休憩所に車を停め、シートベルトを乱暴に外した。
 季節により、無人販売店でもできるのであろうそこは、今は何もない空き地になってる。

「気分でも悪いんですか?」

 曲がりくねった道ばかりだった。僕は本気の心配でシートベルトを外すと九条さんの顔を覗き込んだ。

「きゃっ……」

 その途端、無言のまま九条さんが僕に覆いかぶさって来た。と同時に助手席のシートが倒される。

「あ、あの……っ」
「さっきやったばっかりなのにな……また襲いたくなっちまった」

 ひゃああっ。目の前に前髪を上げデコ出しのイケメンがあああぁ。ロンゲの先が僕の頬に垂れてくる。見つめられたら動けなくなるような強い目力……。

「ジムで初めて目が合った時、俺のあそこがビンってなった。あんた、そもそもエロいんだな」

 僕の頬のあたりを大きな右手で包んでは揉んでくる。

「そ……そうでしょうか……」

 無自覚と言われたらそれまでだけど、自分ではそんなつもりはない。ただ、今までも同じようなことを言われた覚えが……多分それは、僕が惚れっぽいことに起因してるのでは……。

「我慢できねえ」

 言い終わる前に、九条さんの熱い口づけが降って来た。身も心も全部持ってかれちゃうような抱擁。トレーナの下から手を入れられて体をまさぐられ、そのうち下半身にも手が伸びていく。

 軽い自動車なら、九条さんの動きとともに揺れたかも。けど、マセラティは微動だにせず、僕らの欲望を叶えてくれた。




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