7 / 13
弐の三
しおりを挟むその足で、壮真は名人を有する将棋家、大橋本家を訪ねた。ここもまた、旗本ほどの力を持つ家だ。屋敷は将棋道場を併設した由緒ある佇まいだった。
「私も心配しているのです。なんとしても、善太郎殿と一局お願いしたい」
都合よく在宅していた当主本人、宗亰に会うことが出来た。貫禄を漂わせる見た目からは実際の年齢より年かさを印象付けるが、まだ三十を超えたところのはず。
将棋指しは若死にが多く、宗亰が早逝した父親の跡を継いだのは二十歳にも満たなかった。御三家の頂点に長く座ることが彼を老成させたのか。
「一度くらいは指したことあるんでしょうか」
宗亰は武士ではないので髪を結っていない。前髪を後ろに流す総髪を肩口まで垂らしてどこかの役者のようだ。上等な羽織袴姿は、将棋が隆盛を誇っている証だろう。
「いえ。息子の英だけです。あれはまだ、修行の身なので」
素人の大会に、本家の有段者は出場できないきまりだと、宗亰は付け足した。
「本来は養子に迎え、跡を継がせたいのですが……」
「跡継ぎは息子さんなのでは」
本当に悔し気に言うので、壮真は慌ててそう被せる。当時の名人位は実力制ではなく世襲制。家元制度なので、優秀な弟子を養子にして跡を継がせることは可能だ。
ただ、それは男児に恵まれなかったり、育たなかったりした時の緊急処置のはず。宗亰には将棋に精進する息子がいるのだ。
「何を仰ってるのか。大橋家本家を継ぐは、すなわち名人を継ぐ者。将棋界一の棋力がなければいけません。もし私が負けたら、命に代えても善太郎殿に本家を継承してもらうつもりです」
――――命ときたか……真摯というか、これは重い。これでは親も怯む。善太郎はこのことを知っているのか。親元を離れて、将棋の道を行くと決めているのだろうか。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる