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第93話 約束を果たす
しおりを挟む僕が冬真に初めて心を奪われたのは、あの、武道館での演武会だった。上白石が連れていってくれた。
それまでは冬真のことすごくカッコイイけど変な人だと思ってたんだ。上白石には感謝しないとな。それとも、彼との出会いも必然だったんだろうか。
「全国の講演会や演武会に出かけていたのも、どこかで会えるんじゃないかと思ってたからだ。共通項は武士らしき人物ってだけだから、当然その血を受け継いでると思ってね。あの日の演武会に来てくれるのではないかと期待してた」
「武道館に行ったのは、本当に偶然だった。武人の血は……受け継いでなかったね。少なくとも僕は。武術だけじゃなくて、茶道もからきしだ」
「ふふ。そうだな。まあ、私たちは彼らの生まれ変わりなのか、子孫なのか、それもはっきりわからない。けど、こうして惹かれ合ったのにはきっと意味があるのだと思うよ」
「うん……本当に、あの日行って良かったよ。友達の上白石には感謝しないと。でも、あいつが武道オタクだったのは、なんか不思議な縁を感じる」
これも真豪や瀬那が仕掛けた因縁だったのかも。なんて。
でも、僕がなぜ、あれほどあの演舞に引き込まれたのかはわかった。あれは、あの日見た真豪の姿そのものだったんだ。美しく激しく鬼気迫る強さ。
「やっと約束を果たせるな」
「え?」
約束。それは僕との? それともあの最期の日、瀬那とした?
冬真が僕の顎に手をかける。上を向かせようとリードするその手のままに、僕は冬真の口づけを受ける。好きだと言葉にする間もない。僕は夢中で冬真の背に両腕を絡ませた。
僕はどうして、こんなにも冬真に抱かれたいと思ってたんだろう。まるで壊れたレコードのように同じフレーズを繰り返す。こうして抱きしめられてるだけで、満たされた想いでいられるのに。
『約束を果たせる』
冬真はそう言った。炎に包まれながら、瀬那は願ったんじゃないか。再び出会ったら抱いて欲しいと。
信永に抱かれることは拒めず、真豪とは思いを遂げられなかった。瀬那の切ない思いを、僕はずっと感じていたんだ。
暗い廊下を信永について歩くときの、背中に貼りついていた真豪の視線。それを拭いきれなくて……。
僕は思わず、冬真の背中に爪を立てる。
「大丈夫か? ケイ……」
僕らは冬真のベッドの上、冬真は僕の服を剥ぎ、みずからも見事な裸体を晒している。
「大丈夫だよ……冬真。僕は……ずっと待ってたんだ。この瞬間を」
気の遠くなるような年月を経て、僕はこの日を……。冬真は再び僕の唇を奪う。体を滑らしていく指や、首筋から鎖骨を這う舌に僕は過敏に反応し、喘ぎ声と吐息を漏らす。
僕はただ、冬真に全てを委ね、感動と快感にこの身を任せた。
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