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第91話 理想の人
しおりを挟む冬真が明朝師範の仕事があるというので、僕はそれに便乗して一緒に帰ることにした。
体調を気にした母さんが止めたが、僕の決意は固かった(大袈裟)。だって、元気だし、とにかく冬真と二人きりになりたい。
キャリーバックをころころ引いて、新幹線に乗り込んだのは4時前。これならラッシュ時よりも早く東京に着けそうだ。
荷物棚にキャリーバックを置き、膝の上には風呂敷包みが入ったトートバックを乗せた。これはやっぱり、今はそばにおいておきたい。
僕のアパートに保管するのはどうかとも思ったけど、もう盗みに入る人はいないだろうから。
「帰るとき、麻衣さんとなに話してたんだ?」
スーツの上着を窓際のラックにかけ、ワイシャツを腕まくりをする。腕時計の下に、あの痣がちらりと見えた。
「え? ああー。まあ、元気でねって」
と、曖昧な受け答え。実は、あいつ、帰り際の僕を掴まえてこう言ったんだ。
『お兄ちゃん、水無瀬さんとどういう関係?』
『は? 何言ってんだ。先輩後輩だよ』
『うそー。私の目を誤魔化せると思わないでよ。付き合ってんでしょっ』
『あ、あほか。おまえの脳みそなんか涌いてんじゃないかっ』
僕はわかりやすくキョドりながら、否定した。疑いの目で見てたけど、知らん顔を貫く。いずれ話すときはくると思うけど、今じゃない。そう思ったんだよ。
「そうか。ならいいが」
ちらりと盗み見るように冬真を窺うと、したり顔して僕を見てた。まあ、こっちにもバレてんのかな。
でも、誤解しないで。僕は、この関係を恥じてないし、ちゃんと家族にはわかってもらうよう努力する。
そんなことより……。
「冬真、冬真は僕と最初に会った時、『ようやく会えた』って言ってたよね」
聞きたいことが山ほどあるんだ。
「あ、ああ。言ったな」
「なんか『理想の人』とか言ってたけど、あれ、ホント? 本当は、どこかで僕のこと、知ってたんじゃないの?」
憶測でしかないけれど、冬真も僕をどこかで知ったはずだ。僕と同じように夢で見たのかはわからないけれど。
僕と同じ顔をした、瀬那を知っていた。持田さんに言った『運命の人』。それが、瀬那だったんじゃないか。
「そうだね……話しておかないといけないな」
冬真は僕の膝の上にあるトートバックを軽く触れると、そこに置いていた僕の右手を甲の上から握った。
冬真の手のぬくもりが波のように僕の全身に伝わってくる。小さな衝撃が訪れ、僕は少し震えた。
「私が見たのは、最期の瞬間だ。その時も今のように、ケイの手を握っていた」
車内アナウンスがなにかの情報を伝えている。車内販売は……次は新横浜……到着予定時間は……断片的に僕の耳に届いている。
けど、僕の視界にあったのは、真摯な表情で僕を見つめる、冬真の切れ長の双眸だけだった。
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