時をかける恋～抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話～

第８１話 ゲームの正解

　８月某日。その朝、僕はいつもより早く起きた。
　初盆は、じいちゃん、ばあちゃんが住んでいた、あの田舎の屋敷で行われる。

　僕は前日から屋敷中に広げられた骨董品を、あるものは蔵へ、あるものは屋敷の相応しい場所へと移し、掃除をして法事が行われるように整えた。
　この屋敷も新しい主を迎える。その人物も一緒になり、すっかり元気（正気）を取り戻した父さん、母さんや夏休み中の麻衣とともに汗を流した。

「おばあちゃんの三回忌も一緒にできて良かったね」

　初盆当日、制服姿の麻衣がそんな不謹慎なことを言う。まあ、そうなんだけど。制服のない僕は仕方なくダークスーツ。リクルートにはまだ早いけど、どうせいるからと購入した。

「うわ、水無瀬さん、礼服もめっちゃ似合う」

　麻衣に言われるまでもなく、冬真の礼服姿は堂に入ってカッコいい。今日の初盆に出席してくれて心から嬉しく思ってるんだ。この姿を見れただけでも儲けものだよ。

「ケイ？　緊張してるのか？」

　僕の視線を感じたのか、冬真が不思議そうに問いかける。

「いや、カッコいいなって思った」
「え？　馬鹿だな。礼服は誰が着ても似合うようにできてるんだ」

　そんなことはない、と反論したくなる。でも、ここで言い争っても仕方ないか。少しだけ口元が緩んでるのを見ただけでいいことにした。



　退屈極まりない。と言ったら罰が当たるか。けど苦痛でしかない正座での読経と焼香は、じいちゃんとの思い出に浸るのを邪魔する。
　冬真みたいに平然とするにはまだ修行が足りなそうだ。

　街の仕出し屋さんに頼んだ精進落としを食べ終えた後、いよいよこの日のクライマックスが訪れた。

　金持ちが似合わない母さんの親族が、思いも寄らない遺産ゲームに翻弄された半年。
　一時は険悪な状態もあったけれど、結局絆を深め合ったようにも思う。これはもしかして、じいちゃんの作戦だったのかも。


「それでは……皆様お集りのようですね。既にご存じのこととは思いますが、笠松将也様のご遺言についての結果を発表させていただきます」

　じいちゃんの屋敷はほとんどが畳敷きの部屋なんだけど、１室だけソファーを置いた洋式の部屋がある。応接間兼じいちゃんの書斎だ。二十畳ほどのそこに親族みんなが集まった。

　大きなソファー２脚に１番上の将大伯父さん夫妻と四人の弟妹たちが座る。父さんや麻衣達、その他親族はその周りに適当に椅子を持ってきて座った。
　僕と冬真は壁にもたれかけ立ったまま。岩井先生は一番奥、じいちゃんの書斎机の前に立ち、話を始めた。

「笠松様が私に託された遺言書の『最も価値のある品』は、花宮香菜様から提出されたこちらの『茶器』でございました」

　そう、あの日僕たちが鑑定士松尾さんのところに持ち込んだ、ばあちゃんの嫁入り道具が、このゲームの正解だった。