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第79話 鑑定士の屋敷

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 東京麻布には新宿から都営地下鉄に乗り換える。
 和重叔父と話した翌朝、僕らは茶器を持って、岩井弁護士が指定した鑑定士の自宅に向かった。和重叔父はいったん自分の宿に戻り、そこで落ち合うことになっている。



『え? 知らんかったのか?』

 我が家が落ち着いた件。僕は全く予想もしないことだった。

『まあ、佳衣や麻衣に心配させたくなかったんだろうな』

 親父は今年2月の会社の健康診断で、『要精密検査』の結果が出た。まあ、なんでもないだろうと受けた検査で再び要検査に。

『お父さんったら、勝手に自分は癌だって思い込んでねえ』

 とは母さんの言。
 僕は今朝、鑑定士のところに『茶椀』を持ち込むことを知らせると同時に、事の顛末を尋ねた。

『家のローンはどうなるんだ。まだ麻衣は高校生なのに』

 と一人で焦った親父はじいちゃんの遺産をなんとか手に入れようと、無関心だった遺産ゲームに首を突っ込むことに。

『けど、結局なんでもなかったのよ。腫瘍は良性でね。一応取るけど、その手術も日帰り入院で、初盆前に終わる予定よ』

 なんともまあ。でも、何もなくてよかった。

『あら、あのお茶碗がねえ。あんまり信じられないけど、おばあちゃん、大事にしてたから。ま、それがくだんのものなら、価値はお金じゃないってのがオチね』

 と、あっさり言われてしまった。それと良枝叔母さんのこと。迷惑かけてすまなかったと謝罪が来たという。
 しっかり者の伯父さんたちが間に入ってくれたみたいだから、あの半グレ連中から襲われることはもうなさそうだ。



 送ってこられたマップ通りに歩く。麻布十番から徒歩で5分ほど。駅前から少し外れるだけで、道幅の狭い生活臭漂う街並みに入った。
 飲食店や小売店に混ざって小ぶりのマンションや一軒家が並ぶ。そのなかでは異色ともいえる、しっかりとした門構えの日本家屋が見えてきた。

 これが、鑑定士『松尾』氏の自宅だ。
 古いわけではないその瓦葺の屋敷には、彼が収集家としても名高いことを示す蔵がある。
 そこは無料の民間博物館のようになっていて、誰でも自由に閲覧できる。松尾氏は、自身で集めた骨董品や美術品をこの蔵に整理し展示しているのだ。

「めっちゃ、金持ちって感じだね」
「感じじゃなくて、そうなんだろうな」

 彼の素性は知らないが、叔父さんの話から想像するに、じいちゃんが『兜町の相場師』だったころの知り合いかもしれない。


「迷わなかったですか?」

 蔵の前には、岩井先生が人待ち顔で立っていた。僕らは彼が導くまま、蔵の少し低い入り口をくぐった。


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