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第77話 伝説の相場師

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 あの時、冬真の強さが半端なくて、連中の道具による強襲も難なく防げた。けど、もしあれが公になって、下手に騒がれ警察沙汰になってたら。
 向こうが100パー悪くても、冬真の経歴が汚され、武術協会から処分されることだって有り得たんだ。

「え? な、なんだその話は」
「しらばっくれないでよっ! 僕に半グレみたいな連中襲わせたじゃないか!」
「いや……まさか……そんな半グレ連中に脅されることはあっても、けしかけることなんかできんよ」

 和重叔父さんは、誰もが止めとけと言った事業に手を出して、またも借金を作ったんだ。
 多分、じいちゃんの遺産が入るからって、よく考えもしなかったんじゃないかな。それで今、ヤバイところから借りたお金を返すのに大変らしい。

「遺産の正当な取り分じゃ足りなかったの?」

 ついつい詰問調になる。口では違うと言ったけど、僕はまだ疑ってるんだ。半グレ連中をけしかけたのは和重叔父さんだって。

「足りねえよ……全然。足りてたら、こんな真似はしない。けど、ホントに信じてくれ。そんな連中に頼んでない。少なくとも姉ちゃんの子に怪我させるようなことしとらんよっ」

 僕は冬真と顔を見合わせる。信じてあげたいけど……。叔父さんは、洗いざらいを話すからと話を続ける。
 今日ここに来たのは、岩井先生の事務所にいる事務員さんから、僕が鑑定士に見せる『もの』を見つけた旨の連絡があったと聞いたからだと。

「どうして事務員さんが叔父さんに告げ口するんだよ」
「それは、まあ……なんだ。大人の話だよ」

 なんて頭を掻く。そういえば、岩井先生とこの事務員さん、女の人だった……。どうしてこういういい加減な男がモテるんだろう。大人の話は理解できん。

「あ、でも彼女は俺のことを思ってくれて……そんないい加減な気持ちじゃないんだ」
「もういいよ、叔父さん。そこらへんは」

 ライティングデスクの前にいる冬真がくすりと笑った。



 叔父さんが言うには、じいちゃんは結婚前、兜町では有名な相場師(今でいう、有名トレーダーって感じ)だったと。高度成長期の真っ只中だったその頃、相当荒稼ぎをした。

「親父(じいちゃんのこと)は、それで一代の財を築いたんだ。けど、殺伐とし過ぎた日々に疲れて早々に兜町を去った。で、あの田舎の土地やら山やら買って移り住んだんだよ」
「そんな話……聞いたことないけど」

 じいちゃんからはもちろん、母さんからも聞いたことない。家から遠い学校に通うのが大変だったと愚痴ってたぐらいだ。

「秘密だったんだよ。おふくろは当然知ってたかもしれんけど、結婚するときは、親父はただの学校の先生兼農家やった」
「じゃあなんで、叔父さんは知ってんだよ」
「それは、俺が末っ子だったからかな。まだ小さい頃、親父が俺を膝に乗せて、酒を飲みながら聞かせてくれた武勇伝。誰にも言うなよって」

 家族全部で甘やかした。という悪手がここでも発揮されてたか。

「最初は、そんなの嘘かかなり盛った話だと思ってた。けど……」

 叔父は、それが真実だったことを知る。『伝説の相場師、笠松将也』。ある経済誌の片隅に載っていたらしい。こう見えて、叔父は大学で経済学部にいたんだよね……中退だけど。

「俺は親父みたいになりたかったんだ。一人で企画して、一人で起業してその会社を大きくして……俺にだって才覚があるって思ったんだ」

 多分……才覚はあったとしても、甘やかされた結果すぐ人を信用しちゃってたのかもしれないな。僕はうなだれる叔父のうなじを眺め、小さなため息をついた。




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