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第70話 考古学研究室
しおりを挟むそれが、どれほどの価値があるのかは僕にはわからない。戦国時代、大名がこぞって茶碗をかき集めていた時代。
名もない職人の一人が焼いたものだとして。それが全く無名の武家が所有してたのなら、ただ古いだけのものだ。それなりに値はつくのかもしれないけど。
「しかも僕の夢のとおりだとすると、職人どころか素人の武士が焼いたもんだものね」
「そうだな。おばあさんにとっては大切な家宝であっても……」
「おお、やっと来たかっ!」
東京駅に1時頃到着し、そのまま地下鉄を乗り継いで大学にたどり着いた。キャンパスの北側に位置する四階建ての建屋に考古学研究室はある。どちらかというと、うちの大学では目立たない存在。学生の数も少ない。
僕らを出迎えたのは、冬真と同学年の持田という学生だった。そのほかにも白衣を着た学生がちらほら見える。
「よろしくお願いします」
研究室はそれほど広くなく、並べられた机の上に土器なのか、骨なのか、不可思議なものが入れられたグレーのコンテナがいくつも置かれている。
その奥には、大きなディスプレーを持つパソコン。僕たちがお願いした茶碗はそのなかにはなかった。
「こっちだよ」
右側の奥手にもう一つ部屋があった。持田さんの後に続き入ると、10畳ほどの部屋に例の最新鋭の検査機があり、その前のテーブルに僕がお願いした茶碗が、風呂敷の上に鎮座していた。
「この部分、数ミリグラム削らせてもらった」
茶碗の高台部分、置くときにテーブルや畳に付く場所だ。削ると言っても虫メガネで見てもわからない。
「それはお任せしてるから大丈夫です」
持田さんは大柄(けど、冬真より背は少し低い)で、ふくよか。どこか人の好さそうな感じを醸し出している。
冬真の切れ味のよいナイフみたいなのとは正反対。二人は仲がいいんだろうか。
「うん。おかげでお茶碗は美濃焼の焼き物で、約400年以上前のものだとわかった。安土桃山時代だな」
「そうなんだ……土でわかるんですね」
「そう。けど、俺らはそれで不可解な点に気が付いた」
「不可解……ですか」
「勿体つけずにさっさと言えよ、持田」
お、冬真の言葉遣いがなんとなくいつもと違う。やっぱり仲いいんだ。
「わかってるよ。あせんなって」
持田さんはお茶碗を片手で持ち上げる。大きな手だからすっぽりと収まってる。
「ほら、重さだよ。これ、少し重いだろ? 見た目より」
「はい。それは思ってました」
僕も、妹の麻衣も、持った瞬間口にしたことだ。予想していたのより重い。
「この土でこの容量。焼き加減もあるのかもしれないが、それにしても計算が合わない。それで、もしかすると内部になにかあるのかもと考えたんだ」
え……どういうことだ……? 内部になにかって。
「なにか入ってたのかっ!?」
ぽかんとする僕の横で、らしくない声を冬真が上げた。
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