時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第59話 斬新な仮説

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 しかし、実際はこの瀬那が夢の瀬那殿に繋がるかどうかは微妙だった。というのは、大叔父のいう瀬那は名前ではなく地域名だったからだ。
 大叔父は神戸のおじさん、とか東京のおばさんといった使い方で『瀬那のご本家さん』と言ったのだ。

 大叔父やばあちゃんの母親(つまり僕の大ばあちゃん)は瀬那の出だったという。琵琶湖の西側に位置する場所だ。
 そこにはまだ脈々と続いている本家があるようなのだが、大叔父ももう、そのご本家さんとは全く関わりがないらしい。
 そりゃそうだ。因みにご本家は香坂さんという苗字。ばあちゃんの旧姓(大叔父の苗字)は高科で、瀬那の出という彼らのお母さんの苗字も香坂ではない。分家の一つだったはずと大叔父は教えてくれた。

 関係ないだろうとは思ったんだけど、大叔父は親切にも滋賀の歴史を調べている人を紹介してくれるという。
 その人も60過ぎの自由人だから、話をするのは苦にならないだろうと教えてくれた。
 藁にもすがる思いとはこのことか。僕は大叔父に丁重にお礼をいい、その方、若島さんの連絡先を頂いた。



 その夜、冬真に一連の事態を話すと意外な意見が返って来た。

「大叔父さんが言ったのように、瀬那さんのことを名前でなく、出身地で呼んでいたのかもしれんぞ。大きな収穫かも」

 確かにドラマでも『近江殿』とか『尾張殿』とか言ってるときもある。あながち間違ってないかも。凄く楽観的な見方だけど一理ある。
 滋賀へは、冬真も自分も行きたいと強く主張したので、結局来週、二人してお邪魔することになった。またまた二人でプチ旅行だ。重たい作業なのに心が軽くなる。思い切ってどこかで一泊……なんてやっぱ無理かな。

「ケイ、私の方にも収穫があった。あの箱書きなんだけど」

 思いっきり妄想に飛んでた僕を冬真が現実に引き戻した。今は僕の部屋にいる。鍵の修理が予定より早く来てしまって(来てくれて)、元通りになったんだ。塾のバイトが10時まであったので、もう深夜に近い。

「あ、なんて書いてあったかわかった?」

 茶碗と箱は大学の考古学研究室に預けてある。茶碗の年代なんかはまだ判明していないんだけど、箱書きの文字は映像を処理することで可能だ。
 研究室にはいい機材があるのでそれはすぐにやってくれた。

「作者の名だと思うけど、『義嗣よしつぐ』とあった。作品名は『琵琶』。これは最初から読めてたな。あとは茶碗とか、どこの窯を使ったとかで……手掛かりになるものはなかった」
「そうかあ……。義嗣。それが真豪の名前なのかな」

 冬真は首を傾ける。長い黒髪がさらりと肩に落ちた。

「どうだろう。まず真豪という名が見当たらないからな……。だが、あの例の家紋なんだけど」
「うん」
「あれは、真多さなだ家が使っていた『雁金かりがね』じゃないかと思うんだ」
「真多? 真多なら六文銭だろ?」

 歴史に詳しくない僕でも、真多の六文銭は有名過ぎる。三途の川を渡る代金からきてて、死をも恐れぬ軍を表してるとかなんとか……。

「ああ、だがそれは、戦時用なんだ。旗印だな。人にものを贈るときなんかはこの『雁金』を使ってた」
「さすが詳しいな。これは誰かに贈ったものには違いないから、雁金で正しいんだ」
「ここからは私の推理だけど」

 推理。益々ゲームっぽくなってきたな。僕は少しだけ乗り出す。

「真豪は真多家の豪なる者って意味じゃないかな。つまりあだ名みたいなものだ」
「へえっ!」

 それはまた斬新な。けど、武士に二つ名はつきものだ。秀好の『猿』なんかもそのうちに入るだろう。瀬那が地名からくるあだ名だと言ったのは、ここからも考えついたのか。

「まあ、真多にも義嗣なんていないから、真多家にゆかりのある人物だったんじゃないかというのが私の考えだ。素人考えだけどな」
「じゃあ、夢の中の人物は実在した可能性あるんだ」

 僕の夢は、全くの僕が創造したものでなくて、潜在意識(遺伝子?)の中にある記憶の欠片かもしれない。信じられないことだけど、信じたい気持ちでいっぱいだった。


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