時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第51話 夢語り

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 結局、時間切れになり、僕らはじいちゃんの家を後にした。夜の新幹線に乗って帰る。明日は朝から冬真は師範の仕事、僕はバイトがあるんだ。

 冬真はどういうわけか、例のラブレターを貸してほしいと言ってきた。まだ『謎解き』の可能性を考えているんだろうか。何となく冬真らしくないと思いながらも僕は承諾した。

 母さんからは大した情報はもらえなかった。琵琶湖湖畔のお墓も、母はうろ覚えで、自分も何回か行ったけどばあちゃんの先祖の墓くらいにしか思っていないようだった。

「織田家の豊臣家の家臣だったかって? まさかあ。多分、近江の薬問屋よ」

 その薬問屋だって全然根拠はない。じいちゃんは京都に本家があるが、元は公家に仕える算術の教師だったなんて言ってたけど、なんの証拠も残ってない。
 じいちゃん自身はあの田舎で農家兼小学校の先生だった。ばあちゃんは滋賀で割と裕福な家のご息女だったと聞いたことはあったが。母曰く。

「おじいちゃんたちを仲人したのは、おじいちゃんの叔父様だって言ってたわね。その人、滋賀の代議士さんだったのよ。あんな田舎におばあちゃんも良く行ったわよね。おばあちゃんのほうは、京都の近くで何不自由なく暮らしていたんだから」

 聞いたことがあったかもしれないが、右から左に抜けていったような情報を教えてくれた。
 そんな昔のこと、多分お互いが色んな脚色して、どこまでホントかわかったもんじゃない。

「じゃあ母さん、ばあちゃんが持ってた抹茶茶碗のことなにか覚えてない? ずんぐりした、少し重いやつ」
「ええ? そんなの持ってたかしら。あの人、あれで洒落てたから、形の悪いお茶碗はお稽古はもとより、普段にだって使わなかったわよ」

 と、けんもほろろだった。



 新幹線の窓の向こうは、既に闇に包まれている。少しだけ椅子をリクライニングさせ、僕は今日起こったことを思い返していた。
 例の茶碗は僕が持ち帰ることにした。実家に置いておいたら、親父が勝手に鑑定士に見せてしまいそうで怖かったから。まだ、これがそうとは決まったわけじゃないし。見せるなら、僕自身が岩井先生に持って行きたい。

 遺産とかそんなのはどうでもいいんだ。もしこれが、僕が思うようなものなら、手元に置いて納得いくまで調べたい。


「ケイ、私に隠し事はやめてほしいな」

 静岡駅を出たところで、ひかりの乗客がかなり減った。それを見計らったように冬真が話しかけてきた。

「隠すつもりはないんだけど……」

 どう説明したらいいのか。とてもじゃないけど、信じてもらえそうにない。

「夢なんだ」
「夢?」

 それでも、冬真には話さなければ。信じてもらえなくても、今、僕に起こっていることを話さなければ。

「夢で見たんだ。この茶碗。戦国時代、僕がもらったんだ」



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