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第50話 夢の中の人
しおりを挟む戦国時代、信永は茶の湯を愛し、特に茶器に執心して名器と呼ばれるものを片っ端から集めたという。
ただ、自分が気に入ったというだけではその価値の真意が問われるので、千利休に代表される茶人に『この器は素晴らしい。城一つ分の価値があります』と、言わせていたとか。
本当のところはわからないが、戦国時代の武将たちは、信永に認められたい一心で戦場を駆け抜け、武勲を挙げればその褒美として茶会に招かれ茶器を受け取っていた。
信永にしてみれば、城一つより茶碗一つのほうが安上がりなのは言うまでもない。この行いを秀好も踏襲したのも史実により明らかにされている。
ということで、この茶碗が戦国時代のものであれば、何百万でなくてもそれなりに価値はある。
それは科学的な検査でも一応証明されるかもしれないが、名のある武将なんかと関りがあるかはどう考えても立証されそうにない。
名の知れた銘でもなく、作者名も所有者の名前もわからないからだ。因みにもしこれが、織田信永や千利休がらみなら、桁が二けた違うと冬真は付け加えた。
「水無瀬さん、これ、戦国時代のものと思います?」
全く信用していない麻衣が呆れた口調で冬真に問う。
「そうだね。このなかでは最も古く見えるけど。おばあさんの持ってるのはほとんど昭和の時代に買われたものだと思う。ただ、世の中には古く見せる技術はあるから」
夢で見たなんて、僕だって信じられない話、ここでする気にもならない。特に麻衣の前では絶対に話せない。
「とにかく、母さんに聞いてみよう。もしかしたら、祖先は武士の出とかかも……」
「ない、ない。そんな話聞いたことないよ」
「僕だってないよ」
「私、実はこのじいちゃんのラブレターじゃないかと思ってんだよね。これが最も価値がある。お金には代えられんとか。大体遺書がゲーム感覚なのがおかしいんだって」
「なるほど、なにか謎解きなのかもしれんな」
「なわけあるかっ! 冬真も付き合わなくていいよ」
実際、僕もそう考えたことはある。金額的に価値があるなんて信じてなかったんだ。上の叔父さんたちも、金より大事なものがあるみたいなオチなんじゃないかと言ってたし。
そう、この……茶碗が目の前に現れるまでは。
――――『近江が故郷』と言ってた。瀬那の故郷。近江は今の滋賀県だ。
僕は一度だけ、祖母に連れられて滋賀県に行ったことがある。琵琶湖の湖畔、誰だか知らない人の墓参りに。もしかしたら……。
僕はもう、じいちゃんの遺した遺書なんかとうに忘れていた。あの夢の人物が実在したかもしれない。それだけを確かめたかった。
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