上 下
51 / 98

第50話 夢の中の人

しおりを挟む


 戦国時代、信永は茶の湯を愛し、特に茶器に執心して名器と呼ばれるものを片っ端から集めたという。
 ただ、自分が気に入ったというだけではその価値の真意が問われるので、千利休に代表される茶人に『この器は素晴らしい。城一つ分の価値があります』と、言わせていたとか。

 本当のところはわからないが、戦国時代の武将たちは、信永に認められたい一心で戦場を駆け抜け、武勲を挙げればその褒美として茶会に招かれ茶器を受け取っていた。
 信永にしてみれば、城一つより茶碗一つのほうが安上がりなのは言うまでもない。この行いを秀好も踏襲したのも史実により明らかにされている。



 ということで、この茶碗が戦国時代のものであれば、何百万でなくてもそれなりに価値はある。
 それは科学的な検査でも一応証明されるかもしれないが、名のある武将なんかと関りがあるかはどう考えても立証されそうにない。
 名の知れた銘でもなく、作者名も所有者の名前もわからないからだ。因みにもしこれが、織田信永や千利休がらみなら、桁が二けた違うと冬真は付け加えた。

「水無瀬さん、これ、戦国時代のものと思います?」

 全く信用していない麻衣が呆れた口調で冬真に問う。

「そうだね。このなかでは最も古く見えるけど。おばあさんの持ってるのはほとんど昭和の時代に買われたものだと思う。ただ、世の中には古く見せる技術はあるから」

 夢で見たなんて、僕だって信じられない話、ここでする気にもならない。特に麻衣の前では絶対に話せない。

「とにかく、母さんに聞いてみよう。もしかしたら、祖先は武士の出とかかも……」
「ない、ない。そんな話聞いたことないよ」
「僕だってないよ」

「私、実はこのじいちゃんのラブレターじゃないかと思ってんだよね。これが最も価値がある。お金には代えられんとか。大体遺書がゲーム感覚なのがおかしいんだって」
「なるほど、なにか謎解きなのかもしれんな」
「なわけあるかっ! 冬真も付き合わなくていいよ」

 実際、僕もそう考えたことはある。金額的に価値があるなんて信じてなかったんだ。上の叔父さんたちも、金より大事なものがあるみたいなオチなんじゃないかと言ってたし。
 そう、この……茶碗が目の前に現れるまでは。

 ――――『近江が故郷』と言ってた。瀬那の故郷。近江は今の滋賀県だ。

 僕は一度だけ、祖母に連れられて滋賀県に行ったことがある。琵琶湖の湖畔、誰だか知らない人の墓参りに。もしかしたら……。
 僕はもう、じいちゃんの遺した遺書なんかとうに忘れていた。あの夢の人物が実在したかもしれない。それだけを確かめたかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...