時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第48話 出来の悪い茶碗

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 今では珍しい和箪笥なんかも、ネットで調べるとそれほど価値は高くはないようだ。
 着物類は母さんたち女性陣がばあちゃんが亡くなった時に形見分けとしてもらっていったから残ってない。

「これ、もしかしてラブレターじゃない?」

 どこから探してきたのか、白や茶色の封筒の束を麻衣が持ってきた。

「おいおい、なにやってんだよ。これが有名人の手紙ならいざ知らず」
「何言ってるのよ。私たちにはそっちの方が価値あるじゃん」
「それは価値ではなく、覗き見趣味でしかないだろ」

 とはいえ、ちょっとだけ興味はある。祖父母のなれそめなんて聞いたことないよ。
 祖父母は母方だけど、母さんからも教えてもらった記憶はない。たしかお見合いだったんじゃなかったけ。しかし、今はそんな時間はない。

「美代子さま……あ、だめだ、ばあちゃんの名前しか読めないっ!」

 もう読んでんのかよっ!

「お祖父さんは達筆だったようだね。でも、恋文というか、普通に近況報告しか書いてないようだ。お祖父さんは将也さん……か」

 なんと、冬真まで一緒になって。てか、よくこんなミミズの這ったみたいな字が読めるな。

「二人とも遊んでないで、さっさとやることやってくれよ。麻衣、さっき言ったのネットにあった?」
「えー。もう、つまんないな。だからお兄ちゃん、モテないんだよ」
「なっ!」

 何言ってやがる、この馬鹿妹はっ! 僕はこう見えて、中学以来モテる方だったよっ。
 大体こいつは、初日の夕飯で、大胆にも冬真に『彼女はいますか?』なんて聞きやがってっ! でも、その時の冬真の答え……。

『ああ。付き合ってる人はいるよ。とても大切な人だ』

 なんて。それ、僕のことだよね。敢えて『彼女』ではなく、『付き合ってる人』と言い直したところが冬真らしい。
 『大切な人』と言われて僕は真っ赤になった顔を隠すのに苦労した。

「茶道具は、高価ではないかもだが良いものを使われているね」

 そんな馬鹿兄妹は無視して、冬真が茶道具を手に取った。茶碗はもちろん、茶釜から茶筅、なつめ等、一そろいになってるものが数組ある。
 妹が茶巾に入れらているなつめを取り出し。

「私、この茄子のが好きだった。可愛い」
「でもこの辺は、茶道具屋さんで購入した、ごく普通のものだよ」

 ばあちゃんが教室用に買っていたんだ。僕が物心ついたころには、既にあったものばかりだけど。

「これは? 少し古いようだが。銘は……琵琶? 変わった銘だな」
「そんな銘に有名な茶碗ないよ」

 妹がネットで調べてる。取り出した茶碗はずんぐりとした、良く言えば味わいのある。悪く言えば普通に形が悪い。さすがに素人目でもわかる。

 ――――あれ……でも……。

「これ、少し重い。分厚いからかな」

 僕は麻衣が手に持ってひっくり返して眺めているうち、妙な気分になった。

 ――――見たことある気がする。ばあちゃん、これ使っていたことあるのかな。

「誰かからの贈り物のようだな。だいぶ古い。おばあさんのご先祖がもらったものかも」
「見せてっ!」

 冬真が調べている木箱の蓋を僕はひったくった。古い箱は黒ずんで、墨で描かれた字と同化しそうだ。
 文字は何書いてあるかわからないが、その下に家紋らしきものが見えたたんだ。

 ――――この、家紋……。これを……僕は知っている。

 それは真豪が纏っていた着物や兜にあったものと同じだった。


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