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第37話 武道界の貴公子
しおりを挟む新幹線の駅からローカル線を乗り継ぎ、ようやく実家の最寄り駅についた。ここから僕らはレンタカーを借りることにしている。
僕の実家はここからさほど遠くはないし、母親が迎えに来てくれると言ってたが、実家からじいちゃんの家に行くのには車が不可欠なんだ。何度か往復するだろうからレンタカーが最適だろうと判断した。
と言っても、僕はまだ無免許なので冬真が運転してくれる。ホントは、この夏休み中に合宿行く予定だったんだよ。
「よし、行くか」
冬真は東京ではほとんど運転しないけど、地方では意外にも運転率が高いらしい。演武会なんかは荷物も多いしいつも送迎があるとは限らない。そんなときはワゴン車なんかを借りて自走するとのことだった。
「おかえり。長旅疲れたでしょう」
実家では母が僕らを出迎えてくれた。冬真が行くのは知らせてある。大学の先輩で骨董に詳しいということにしてる。実際武具なんかは詳しいけど、それ以外はからきしだとは本人の弁。
「お世話になります。水無瀬冬真と申します」
「こちらこそいつも佳衣がお世話になっています。今回は家の騒動に巻き込んでしまって……」
ほんとだよ。と、僕は心の中で文句を言う。母さんは悪くないってわかってるけど。
「お兄ちゃん、お帰りーっ!」
玄関から居間に向かう途中、二階から麻衣が駆け下りてきた。そしてぴたりと止まる。
「な……い、イケメンっ!」
「おい、なんだおまえはっ! 恥ずかしい奴だなっ」
僕の後ろにいた冬真を見て固まりやがった。目をまん丸くしてホントに恥ずかしい。
麻衣の反応は概ね予想できたけど、ここまであからさまだとさすがに引く。
「妹さんの……麻衣さんだね。よろしく」
「は……はい。わあ、名前知っててもらった。兄さん、紹介してよ」
「武道界の貴公子、水無瀬冬真様だよ」
つとめてぶっきらぼうに言う。『武道界の貴公子』なんて、自分も聞いたことないけど、これもほとんど間違ってない。
「わああ。よろしくお願いします」
興奮したまま麻衣が言う。冬真も苦笑いするしかないよな。
「おい、武道界の貴公子ってなんだ」
居間に入り、冬真から苦情を申し立てられた。
「いや、なんとなく。それより妹がごめん。ホントに恥ずかしい奴だよ」
「え? それはなんとも思ってない。ケイに似て美人さんだ」
なんて冬真は言う。麻衣にヤキモチ妬くわけじゃないけど、嬉しいような面白くないような不思議な感情になった。
その後、父親が帰ってきて夕食を共にした。父さんはしきりに冬真の『骨董鑑定能力』を聞きたがったが、僕は無難にはぐらかしてやった。とにかく見てみないとわかりませんからと、冬真もあの大人の笑みで返してた。
明日には和重叔父さんや良枝叔母さん夫婦がじいちゃんの家に来るらしい。顔を見たくないのに嫌になるよ。
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