時をかける恋~抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話~

紫紺

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第22話 無遠慮な言葉

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「どうした? もう夜中だぞ。私は構わないが……」

 ドアを開けてくれた水無瀬先輩は、いつもと変わらず落ち着いていた。けど、近所迷惑なのは気になったみたいだ。

「すみません、遅くに」
「いいよ。ほら、突っ立ってないで入って」

 けどすぐに笑顔になって、僕を迎え入れてくれた。

「そこに座って。珈琲でも淹れよう。お酒はもういいだろう?」

 先輩の部屋はこれが同じアパートかと思うくらい機能的で整頓されていた。
 キッチンと部屋は食器棚兼飾り棚で仕切られ、中央に二人掛けのソファとテーブル。奥にはベッドとライティングデスクが置かれていた。

「今日はどうだった? 楽しめた?」

 僕はまだソファーに座れず、先輩が珈琲を運ぶのを手伝った。けど、その無遠慮な言葉にまた感情的になってしまう。

「どうしてそんなこと言うんですか」
「ん? なに?」

 カップをテーブルに置き、僕は突っかかる。

「僕のこと、好きなんじゃないんですか? それなのにどうして。楽しめたとか、いい出会いがあるといいねとか言うんですか? 僕が……ただ、酒飲みに行ったって思ってないですよね?」
「ああ、そういうこと……」

 先輩も座ろうとしない。テーブルの上には二つの珈琲カップが芳醇な香りを立てているというのに、僕らは突っ立ったまま向かい合ってる。

 先輩は黒のゆるシャツにラフなボトムスだけど、部屋着とは思えないほどきまっていた。髪は無造作に束ねてて、それもまたセクシーに感じる。セクシーって僕はもう頭おかしくなってるな。

「そういうことって……僕、言いましたよね。人違いだって」
「人違いじゃない」
「違います。僕はなにも覚えてない。あなたのことを知らなかった」
「うん、それはわかってるよ」

 取り乱す僕に、先輩は全く動じず、淡々と応えてる。だんだん僕は腹が立ってきた。どうして僕はこんなに苦しいのに、あなたは平然としているのかと。

「僕が、先輩を好きになったらどうするんですか? 本物が現れたら、僕はどうしたらいいんですか。僕は……」
「花宮、声が大き……」
「僕はあなたがあの場で舞うのを見て、たまらなかった。僕はっ!」

 そこで、僕の言葉も息も全部奪われた。体ごと壁まで持っていかれ、先輩の大きな手が僕の顎を乱暴に掴む。

 ――――あ……。

 僕の唇を塞ぐ水無瀬先輩の唇。柔らかい? 熱い? 僕は全身が震えるのを感じた。意識が遠のいていく。
 彼の腕に支えられながら、僕はずるずると音を立てて堕ちていった。


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