時をかける恋～抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話～

第１８話 ヒーロー

　僕の名前を知る、でも全く身に覚えのないチンピラ二人に、僕は絡まれてしまった。腕を掴まれて、逃げようともがいているとそこに。

「やめろ。おまえらうちの学生に何してる」

　颯爽と現れたその人は、長い黒髪を束ねた目つき鋭い長身……つまり水無瀬先輩だった。

「水無瀬先輩」
「何しやがる！　手を離……いてててっ！」

　先輩はチンピラの腕をいともたやすく捩じ上げた。僕は先輩の影にさっと隠れる。虎の威を借るキツネと言われようが、正しい選択だ。

「おまえっ！」

　もう一人のずんぐりした男が身構える。だが、水無瀬先輩は全く動じず、掴んでた若い男をそいつに向けて押し出した。二人はぶつかり無様によろけてる。

「そいつを連れて帰れ。怪我するだけだ」

　水無瀬先輩は僕の前に仁王立ちのように構える。背中にいても放っているオーラが凄いのがわかる。きっとあの切れ長の鋭い双眸で睨みつけてるんだろう。

「ちっ。おい、行くぞ」「なんだよもう、こんなの聞いてない」

　さっきまでいなくなってたはずなのに、水無瀬先輩が出てきた途端、人がワラワラ集まって来た。
　どうなってんだよ、これは。チンピラたちはその視線も気になったのか、何やらぶつくさ言いながら、そそくさと去っていった。

「大丈夫か？　花宮」
「あ、はい。ありがとうございました。助かりました」

　先輩には思うところたくさんあるし、聞きたいこともある。けど、今は心から感謝したい。

「ほんとは二度と現れないよう、痛い目に合わせたいところなんだけどね。私がやると過剰防衛になってしまうから」

　なんでもなかったように先輩はサラリと言う。確かに武術を極めてる人が暴力を揮うのは最後の手段になる。相手が武器でも持ってないと逆に罪になってしまうこともあるんだ。

　そんな状況でも、僕を助けに来てくれた。あっという間の出来事で、僕の心臓はバクバクしてたけど、助けに来てくれたシーンを振り返ればまさにヒーロー。カッコいいよ……。

「けど、どうして絡まれたんだろうな。新手のナンパか？」
「え？　まさか。でもお金持ってそうでもないのに不思議です」
「そうだな。でも、マジなやくざという感じでもなかったな」

　あっさり肯定されてしまった。でも、マジなやくざじゃなかった……か。

「もう大丈夫ですから。ありがとうございました」
「いや、送っていくよ。なんなら今後もボディーガードしよう」
「えっ！　そ、それには及びません。自分も気を付けますから」

　真剣な表情で言われて僕は焦る。気持ちは嬉しいけど、あなたにも大学や師範の仕事があるでしょうに。
　それに僕は、一つだけ心当たりを思いついた。それならば恐れる必要はない。

　大学に来た様子なのに僕を送ろうとする先輩に少々手間取ったが、都合よく同じアパートの同級生がやってきた。彼と帰ることでようやく解放してもらえた。

　思いついた心当たり。それは僕の実家だ。