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第11話 演武会
しおりを挟む大学入学してすぐ、どういうわけか春の連休がある。
テンション高いまま過ごしていた日々を旅行やバイトで更に盛り上げるのか、それとも一度実家にでも帰ってリセットするのかそれは人それぞれだ。
僕はどちらかというと前者だけど、盛り上げる元気はなかった。
連休は塾のバイトが忙しいので帰省するのは無理だが、たとえ暇でも僕は帰らなかっただろう。正直、実家にはもう二度と帰りたくない。
あれから水無瀬先輩は忙しいのか、食事に誘われることはなかった。ただ、アパートの廊下ですれ違うといつもにこやかに挨拶してくる。
どういうわけか、いつも距離を詰められるので、僕はその度に壁に塗り込まれそうになっていた。
「おい花宮、今度水無瀬先輩が出場する演武会があるんだけど、一緒に見に行かないか?」
塾講師のバイト終わり、上白石が声をかけてきた。こういうこと聞きつけてくるってのは、やっぱり武術とか刀剣とかに興味があるんだな。
「へえ。演武会ってなんだ?」
「居合とか抜刀は1対1の競技というより、演技の美しさや完璧さを競うんだよな。言うならばフィギアスケートみたいな。演武会はそのエキジビションだよ。すそ野を広げる普及活動の一遍でもある」
演武会か……。興味があるわけじゃないけど、見てみたいと思う。あの姿勢の良さや目つきの鋭さから、水無瀬先輩からは人ならぬものを感じる時がある。ただ、僕の前ではグイグイくる謎の人だけど。
――――本当の水無瀬先輩はどっちなのか、知りたい。
いつだったか、水無瀬先輩が長い髪を後ろ手に束ねていたときがあった。女子ならポニーテールだけど、まるで侍みたいでめちゃくちゃカッコ良かったんだ。僕は思わず胸キュンしてしまって……。
ただ、そのあとまたすぐ僕の近距離に迫って来たので全部飛んでしまった。
「うん、行ってみようかな。せっかく東京来たのに、ほとんどどこにも行ってないし」
浅草や原宿なんかは一通り行ってみた。でも、正直そんなに楽しくは感じなかった。人ごみは苦手だし、都会に来てよかったと思ったのは、そこらじゅうにコンビニとファストフード店があることだ。
インドアでゲームしたり本を読んだりするのが好きな僕にとっては、賑やかな街は関係ない。僕は実家から逃げられればどこでも良かったんだ。
演武会は二日後だと上白石は教えてくれた。その日はちょうどバイトも休みだ。またラインをすると言って、僕らは別々の帰路についた。
部屋に戻り、僕は水無瀬先輩が出るという演武会をくぐってみた。演武会は日々練習を頑張ってる子供たちが中心の発表会のようなものもあるが、今回のは有料の本格的なイベントだ。演技者も師範級の方々ばかり。
空手や合気道、薙刀など種目も色々あり、水無瀬先輩の抜刀術はなんとトリだった。特別出演扱いで、ポスターにも水無瀬先輩が刀を振り上げている写真が使われていた。
――――なんだろう……凄みというか……。
この姿を目の前でとらえたら、逃げるどころか一歩も動けない。一息もつけない迫力を感じる。僕は画面越しなのに、胸が苦しくなるのを感じた。
――――これを実物で観たら、倒れちゃいそうだ。
広い武道館で行われるのだから、遠目でしか見ることはない。そうわかっていても僕の心臓はとくとくとうるさいくらいにリズムを刻んでいた。
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