8 / 98
第8話 近いです。
しおりを挟む上白石はそのまま僕のアパートに泊まっていった。
あいつが持ってきたゲームで夜中まで遊んでいたので、翌日の講義は、ほとんど居眠り状態。僕もゲーム機だけは手放さなかったから、久しぶりの対戦ゲームは楽しかった。
講義中の居眠りだけでは睡眠不足は解消できず、僕はあくびをしながらアパートに帰り着いた。階段を上がって廊下に出ると、水無瀬先輩がドアのカギを閉めているところだ。
「水無瀬先輩、あの……」
僕はハッとして駆け寄った。昨日、うるさかったんじゃないかと、僕は密かに心配してたんだ。
「あ、花宮君、こんにちは」
けど、先輩は僕を見るなり花が咲いたような笑顔になった。硬派……の文字が僕の頭の中でまた霞んでいく。
「昨日、うるさくなかったですか? 友達が来てて……」
それでも僕は、申し訳なさそうに尋ねてみた。実際申し訳なかった。
「ああ。いや、あれくらいなら私は気にしないから大丈夫だよ。友人が出来たのならそれはいいことだ。彼はどんな人?」
気にしないとは言ってくれたが、やっぱり聞こえてたんだ。まさか内容まで聞こえないよな?
反対隣の学生も時々友達と一緒に騒いでる。盛り上がった歓声がたまに聞こえてくるけど、話す内容までは聞こえなかった。
「あ、はい。同級生で……実家住みの奴です」
「そうなんだ。いいね。同級生の友達」
なにがいいのか。いや、それよりも水無瀬さん。話しながらどんどん僕に近づいてくる。僕は少しずつ後退りし、ついには壁に背中が付いてしまった。
「バイトとかするのかな?」
「はい……えっと……その、水無瀬先輩」
「なに?」
「ち……近いです」
壁に押し付けられて、綺麗な顔がすぐそこにまで近づいていた。ここに手を突かれたら、まさに壁ドン状態になる。
ドキドキタイムならまだしも、どう見ても、恐喝されてるビビりな後輩だ。
「あ、これは失礼」
キョトンとした目。けど微動だにしない。
「ですからその」
失礼と言いながら、全然どかないのなんでっ? もう壁にめり込みそうな勢いで僕は背中で壁を押す。すると、先輩はふふふと柔らかく笑った。
「ごめん、ごめん。ちょっと揶揄っちゃった」
「か、からかったって!」
ようやく一歩下がった先輩に、僕は思わずムッとした表情で返す。
「ん? 怒った?」
口にすると同時に、ふわりと僕の顎の先に指が触れた。節はくっきりとしているが、太くもなく長い。広げると相当大きそうな手だった。
「いえ……怒ってはいませんが……」
「君は自炊はするのかな」
ようやく体を階段の方へと向けた先輩。本日は黒シャツにダークグレーのジャケットを羽織り、このままバーに行っても大丈夫な感じだ。
「いえ……これから練習していこうかと」
「そうなんだ。良かったら、今度私の部屋に来ないか。失礼の詫びに手料理を御馳走するよ」
「え……あ、はい。是非」
断ることはさすがにできなかった。水無瀬先輩は嬉しそうに口角を上げ、額のあたりに指をあて目くばせを一つする。固まる僕を後目にスタスタと行ってしまった。
11
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる