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第5話 時代劇

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 自室に戻り、はあ、とため息とともにベッドに横たわる。ソファーなんて上等なものはまだないので、床に転がるかベッドに転がるかしか横に慣れない。この季節なら、断然ベッドを選ぶ。

 ――――しかし、さっきの。体当たりというか、あれ、僕を抱きしめようとしてたのか? もしかして?

 確か両手を広げてたような。いやいや怖すぎる。よくよく思い出すと、確かにイケメンだけど強面でもあったような。

 ――――あ、でも学生だよな。ウチの大学の三回生だと。大家さんもそう言ってたじゃないか。

 でも、あれで21歳とか思えないっ! あの長髪も堅気に見えないよ。でも艶々すべすべで手入れの行き届いた髪だったな。あ、どうでもいいかそんなこと。

 ――――バイトでモデルとかやってるのかも。そうか、きっとそうだ。

 黒シャツに細身のデニム。グレーのネクタイなんかしたら、そのまま男性誌に掲載されてもおかしくない。僕は妙に納得した。
 にしてもだ。一体誰と人違いしてたんだろう。会った瞬間抱擁しようとするくらいだから、よっぽど親しい相手なんだよな。幼馴染とか、親友とか、はたまた生き別れた弟とか。

 そんなどうでもいいことを思いめぐらしていると腹が減ってきた。自炊もしたいけど、まだまともな調理器具がない。炊飯器と電子レンジだけだ。フライパンくらい買うかな。
 僕はコンビニ弁当をレンジでチンして、その日の夕食を済ませた。



『蘭丸、明日は鷹狩に出かける。共をせい』
『はっ。承知いたしました。それでは小雲雀こひばりを見てまいります』

 蘭丸のはきはきとした声が天守閣に響いた。下げた頭のままちらりとその顔を覗くと、上気した頬はやや赤く見え、いかにも嬉しそうに殿を見上げていた。

「そんなものは他の者に任せればよいではないか」
「いえ、大事な殿を乗せる馬でございます。人には任せられません」
「そうか……それなら好きにしろ」

 再び『はっ』と礼を取り、蘭丸は足取りも美しく退室した。


「また蘭丸か。殿はもう、蘭丸しか眼中にないようじゃのう。しかもあいつ、点数取りが上手い」
「そうだよな。ま、わしらは暇でええけど、近頃は戦もないからのんびりじゃ」
「瀬那はどう思っておる。蘭丸が来る前は、おまえが一番のお気に入りだったろう。その人形のような綺麗な顔が好みだと」

 年かさの小姓が尋ねてくる。僕? 僕が聞かれているのか?

「蘭丸さまは美しいうえに知識も豊富。しかも、あのように気配りもできて……私には到底真似できません。殿がご満足であれば何も言うことはございませんよ」

 なんかスラスラと応えてる。全く考えてもいないことなのに。僕はただ、時代劇のドラマを見るように、この場面を眺めていた。

「まあ瀬那は、戦になればその才を発揮できるからいいよのう。わしも騎馬の腕を磨くか」

 なんの話だ。でも信永と言えば戦国だから、普通に戦もあるってことか。

「瀬那殿。真豪まごう殿がお呼びでございます」

 小姓たちの控える部屋、襖の向こうでお女中の声がした。『はい、ただいま』と僕が応えてる。

 真豪? 誰だそれ、でもどこかで聞いたことある。と思ったところで目が覚めた。


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