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File No. 84 昔話
しおりを挟む竜崎が風見刑事に緊急電話をする2時間ほど前、二人は大学の旧塩谷教授の部屋にいた。
部屋の主がこの世を去って1ヶ月。物は少なくなったが、まだ明け渡されてはいなかった。現在は土屋教授が渡米する準備部屋のようになっている。
「わかってます。刑事さんの仰りたいことは」
「じゃあ、正直に話してもらえますね?」
いつか、藍が教授に迫られたソファーに、風見刑事と竜崎は土屋と向かい合って座っている。
テーブルの上にはお茶などのカップはなく、土屋が整理中の書籍が積まれている。それをついさっき、竜崎が端に寄せたところだ。
「これ、見覚えありますよね」
何も言わない土屋に業を煮やしたのか、ため息をつきながら風見がテーブルの上に何かが入ったビニール袋を置いた。
部屋の照明に反射して、きらりと光っている。竜崎が藍に上げたピラミッドのキーホルダーだ。
「ああ、もう。そうです。このキーホルダーを教授の脇に置いて、美山君にメールをしたのは私です。でも、教授を殺したのは私じゃありませんからっ!」
最後の一文を土屋は大声で強調した。
いつも通り、スーツをしっかりと着こみ、テーブルで見えないが本日もハイヒールのパンプスを穿いていることだろう。艶のある唇をへの字に曲げていても、美人だと風見刑事は思った。
「では、それを踏まえて、あの日のことを……本当のことを話してください。一切包み隠さず」
そもそもこうして再びの事情聴取にやって来たのは、竜崎が録音した当日の様子を今更だが提出したからだ。もちろん風見は激怒した。
『いやあ、藍が提出したのと同じだと思ってたんで』
などど、実際は竜崎の録音のほうがずっと長いのにそう嘯いた。
それから、吉川准教授の『前科』の件。案の定、警察ではそこまで調べが至っていなかった。これにはまた大きな事実が判明したのだ。
「はあ、わかりました。これで米国に行けるなら……」
「それは最後まで聞かなければなんとも言えませんが……善処しますよ」
風見の返答に、益々土屋の口はひん曲がったが、仕方なさそうに頷き、話し始めた。
「あの日、あの土曜日。私は教授が誰かを呼びつけてること。随分前から知ってたの。お察しのとおり、彼のスマホのパスワードなんかわかってたしね」
煙草を吸いたいのか、彼女は手持無沙汰のように細長い指を忙しなく組み合わせる。指輪はなく、マニキュアも透明なものだけであっさりしていた。
「少しだけ、昔話もいいかな。どうしてこんなことになったのか、聞きたいよね?」
風見と竜崎はちらりと目を合わす。それから、どちらからともなく大きく頷いた。
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