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File No. 81 終わりの始まり
しおりを挟む吉川准教授に雑用を命じられ、僕は先生と二人きり、教授たちの部屋の奥にある納戸で作業をしていた。
話が弾んだわけじゃないけど、僕は夜に竜崎と会うにあたり、なにか収穫がないかと探り? を入れてみた。でも、あっさり冷たい視線に遮られ、ただいまとっても居心地が悪い。
それに、こんな狭いところで出口を塞ぐように立つ吉川准教授の胸……いや、威圧感が半端ない。
「あ、いえ、別に……えっと、これで終わりです。全部出しましたよ」
竜崎への土産はないけど、ありがたいことに作業は終わった。この辺で解放してもらわないと呼吸がヤバイよ。
「ああ、はい。ありがとう。助かったわ。どう、お茶淹れたし、飲んでかない」
吉川先生は一瞬、不満そうに眉を顰めた。けど、僕を拘束しても竜崎の話が聞けないと悟ったのか、先ほど沸かしたお湯を紅茶葉の入ったティーポットに注いだ。
横には真っ白な砂糖の入った壺とマグカップが置かれている。
「あ、いえ。僕もう、バイトに行かなければいけないので。すみません」
これ以上長いは無用だ。あっさり断ると、先生はさらに怪訝な顔をした。
「そう。それは申し訳なかったわね。バイトはカフェだったよね。見かけたことある」
「はい、そうです。また御贔屓に」
なんて言って、僕はその狭い場所から先生の横をすり抜けるようにして脱出した。
教授の部屋からゼミ室に戻ると、ようやく息ができるような感覚。思わず大きく息を吐いた。
その日のバイトはとにかく忙しかった。ランチタイムは仕方ないにしても、土曜日だからか、午後3時になっても客足が途絶えなかった。
店長にしてみれば嬉しい忙しさだろうけど、僕ら時給で働くバイトにとっては全くありがたくない。しかも、本日は一人お休みだったからなおさらだった。
「藍、もう6時だ。上がっていいぞ」
ようやく店内が落ち着いてきた頃、バイトの先輩からそう声をかけられ慌てて時計を見た。
先回竜崎と約束した時は、全然時計が進まなくてイライラしてたのを思い出すと、こういう時は忙しい方が助かるな。なんて思ってしまった。
『ごめんっ。少し遅れる。10分くらい』
エプロンを外し帰り支度をしていると、竜崎からメッセージが。
そう言えば、竜崎からメッセージかと思って急いで見たら、とんだ脅迫メールだったってこともあったな。今日のは竜崎ので良かった。
バックヤードで待つのも気忙しいし、僕は店の裏側、従業員用の駐輪場で時間を潰すことにした。5月末の夕暮れ、もう陽が沈もうとしている西の空はオレンジに染まって綺麗だ。
駐輪場の円柱に凭れると、尻のポケットに何かがあたった。取り出すと、ミント味のガムだ。
――――あ、あのお泊りの時のか。
正直に言えば、なにかを期待して購入したガムだったが、2個噛んだくらいでなんの役にも立たなかった。僕は一つ取り出し、口に放り込む。爽やかなミント味が広がった。
『よお、第一発見者。警察から随分絞られたんだって?』
その時、僕は唐突に思い出した。今日ポーチの中で見たリップクリームと同じものをどこかで見たことを。
それが何を示すのか、どうして突然僕の脳裏に蘇ったのか考えようとしたその時。
「ギャッ!」
首と肩のあたりに、強烈な痛みが走った。心臓が飛び上がるほどの衝撃。
目の前でオレンジの残像が弾けた瞬間、いきなり全てがブラックアウトした。
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