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File No. 77 優しくなんかない
しおりを挟む階段教室のドアを開けた時、ふと後ろを振り向いた鏑木と目が合った。
僕がすかさず右手を上げると、あいつはにんまりと口角を上げ、同じように手を上げた。竜崎と一緒の姿を見て安心したのかも。いい奴だな、鏑木は。
また二人で事件の捜査が出来る。いや、二人で一緒に居る時間が出来る。それこそが僕は嬉しかった。別々にやったところで楽しくないのに今更気付くなんて、全く僕はアホだな。
「とりあえず、ネットで調べてみるか。大学の年表なんかに載ってるわけないからな」
「そりゃそうだ。12、3年前だから、ネット環境も今とそんなに変わってないんじゃない?」
「ツイッターの利用者も増え始めてたころだしな」
僕らはランチをさっさと済ませ、図書室でパソコンを開いた。二人、各々のキーワードで探りまくる。
「でも、この自殺騒ぎが今回の事件と繋がりあるのかな。確か、能代さん殺害時には入間教授は海外だったよね」
連続殺人事件が同一犯なら、入間教授は容疑から外れるのだけど。
「まあ、なにが関係あるかはわからんから。それに、共犯ということもある。お、あった。これだな」
5分も経たないうちに、僕らはそれらしい事件にあたる。竜崎はニュースよりも当時のブログやツイッターという個人の記録に当たりを付け、それがヒットしたようだ。
「大学で起きた事件をまとめているサイトだ。よく出来ている」
僕に見えるよう向けられた画面をさっと流し読みすると、人物名は全てイニシャルにはなっているが、かなり詳しく書かれている。
「これ読むと……Rさんは、その前にも自殺未遂してたみたいだね」
「親友でもあったYさんが直前で気付いたから良かったものの……か。これ、吉川先生のことだな。奪われた相手の前で自殺しようとしたのなら、彼女もなかなか気の強い人だったのかもな」
僕もそれは思った。ここだけ切り取れば、狂言自殺も予想できてしまう。
「けど、それから1ヶ月後だからな。旧研究棟から飛び降りたのは。その間の時間に、狂言では済まされないほどの心労を受けたとも予想できる」
ブログの記事によると、最初は自殺を自演することで、彼が戻ってくるのではと考えたが、それが絶望的だと知った。返って狂言自殺を疑われて悪化したのだとある。
「引くに引けなくなったのかな。こんなことで命を落とすとは、残念だな」
竜崎は図書室ということで小声だったが、より声を落として言った。僕もそう思う。
人を想う気持ちはとても大切だし、大事にしたいものだけど、行き過ぎても相手に負担をかけてしまうだけだ。
たとえ心底好きな人に裏切られたとしても仕方ない。半分は自分のせいだろうし、いっぱい泣いて明日を待てばいい。
――――なんて思うけど、もし竜崎に僕の気持ちがバレて、あっという間にフラれたらどうだろう。正直考えたくないけど、十分に有り得る未来だ。
だから好きだなんて言えない。友達でいいんだ。友達になれただけで。
「どうした、藍? 急に黙って。同情したのか? 藍は優しいからな」
僕が優しい? そんなことない。今だって結局自分に置き換えてる。
「優しくなんてないよ。竜崎の方がずっと優しいじゃないか。いつも僕なんかのこと気にかけてくれてさ」
「それはだから、そうじゃなくて……いや、もう……まあいいや」
なにかまだ言い足らないように見えたけど、竜崎はそこで口噤んだ。代わりに首を軽く左右に振り、小さなため息をついた。
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