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File No. 73 忍び寄る鬼門
しおりを挟む本日、いつもならスキップしながら登場する僕が、まるで生気なくやってきた。聞けば寝不足という。鏑木は僕が竜崎と喧嘩したのだろうと推測したのだ。
まあ、ほぼあたりだ。喧嘩というか、言い争いというか、僕が馬鹿だというか。
「せやから、とっておきの情報教えてやったんや。竜崎にも教えてやれや。仲直りできるかもやで」
鏑木が本気でそう思ってるのかどうか、ただ面白がってるだけなのかはわからないが、気持ちは嬉しかった。たとえ、からかい半分であっても。
「あのさ、でも一つだけ言わせて。竜崎は僕のこと、全然なんとも思ってないからな。あいつは僕のこと、ただの友達だと思ってる」
講義が終盤に差し掛かっている。まだ少し時間はあるが、今日は早めに終わりそうだ。気の早い奴は、既にモバイルやらパソコンを片づけ始めていた。
「ただより安いもんはないで。ああ、竜崎も苦労するな」
ん? なんか今のはよくわからなかった。でも、鏑木は目じりを下げ、気の毒そうな表情を向けたから、多分伝わったんだろう。
結局、吉川先生は不機嫌なまま、10分も早く講義を終えてしまった。
まあ、学生たちは明らかに始まってすぐ、他のことに時間を費やしていたけれど。
「はよ終わったから、俺、売店寄ってくわ」
「あ、うん。あの、今日はありがとう。色々教えてくれて」
「別に。俺が話したかっただけや」
鏑木はそう言って、リュックを背負うと教室を出て行った。後ろ姿は普通に高校生にしか見えない背中を僕は見送った。
さて、このまま第2講義棟に向かうとしよう。ただ、せっかく鏑木がくれたネタだけど、今すぐ竜崎に話すかは正直迷う。もちろん僕一人でなにかしようってわけじゃないよ。
――――そうじゃなくて、素直に謝りたい。
鏑木のおかげでそんな気持ちになれた。僕が竜崎と仲直りできるようにって、気にしてくれたの、嬉しいんだよ。
だから、とっておきの情報で釣るみたいなことはしたくなかった。
「美山君。ちょっといいかしら」
ベクトルが真っすぐ伸びていた僕の後ろ髪をグイッと引っ張る声が。
「は、はい。なんでしょうか」
なんと、いつのまに背後に忍び寄ってきたのか(個人的感想です)、僕の真後ろに吉川准教授がいた。
教室に残っていた数人の学生が僕をちらりと見ている。羨望の眼差しとまでは言わないが、目は口ほどに物を言っていた。
「次の講義まで少し時間があるから、ちょっと伺ってもいいかしら」
吉川先生とは対面で話したことなど1度もない。ゼミ生なのでゼミで質問したり、たまにみんなで雑談したりはあるけど、僕の発言率は少ない。
それをこんな間近にやってきて、まるで僕と話すためにマッハで講義を進めたかのような印象すらある。
――――凄く嫌な予感がする。
でも、僕に拒否する権利などない。
「はい。構いませんが……」
どう表情を作っていいのかわからず、素のままで応じると、彼女は皆が認める大きさを強調するように胸を張り、艶々の唇に笑みを蓄えた。
「良かったわ。1度あなたと話したかったのよね」
「はあ……」
いや、それは絶対嘘だろ。そんな素振り感じたことないぞ。
「美山君、昨日、塩谷教授のところの助手、土屋先生と随分長く話してたそうじゃない。どんな話をしてたのか、教えてくれないかな?」
マジか……またその話。土屋先生との対話、どのくらいの人が目撃したかはわからないが、完全に僕の鬼門になったのは間違いない。
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