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File No. 66 不運と前科
しおりを挟む酔っぱらってるわけでもないのに、土屋さんの独演会は続いた。
この様子が外から見えるのか、タバコを吸いに来た雰囲気の学生や職員さんが回れ右してるのがわかった。なので、マシンガントークはまだまだ続く。
「入間教授の奥様はお嬢様育ちだから、入間教授のアカデミックな肩書に惹かれたのね。でも、贅沢な暮らしはご実家の援助があるからこそ。教授もその恩恵に授かっているってわけよ。だからこそのレクサスにブランドスーツ。けどもし不倫がバレたら……」
そこでまた、土屋さんはタバコの灰を落とす。それから喫煙室に持って来た珈琲をごくりと飲んだ。
「絶対許されないと思うのよね。学部長になる前に離婚されちゃう。そうすると……学部長選挙どころじゃなくなる。この大学はあそこの病院とは深いパイプがあるからね」
「バレちゃうんですか? 今までバレなかったのに?」
素直な質問をすると、土屋さんは臆面もなく、『なんなのこの子』という表情をした。
「あんた、少しは頭使いなさいよ。竜崎君と違い過ぎる!」
うっ……。一番言われたくないことを……。
「塩谷教授は学部長の椅子を狙ってた。自分のネタは棚に上げて、入間さんの不倫を公けにしようとしてたとしたら?」
「してたんですか!?」
「だからっ。その可能性だってあるって話よ。竜崎君はその辺のとこ話しても、今更って感じだったわよ」
「ああ、なるほど……竜崎には確認済みですか」
確かに以前、竜崎が同じようなこと言ってた。あの例のファイルに二人のヤバイ写真を納めてたんじゃないかとか。竜崎の中では既に解決してんのかな。
「大体、吉川准教授だって怪しいわよ」
「吉川准教授がですか?」
びっくりするようなことを突然言う。
「そうよ、彼女は入間教授の愛人だから准教授になれたのよ。あの無駄にデカい胸のおかげでねっ。私は塩谷教授に色仕掛けできないし! あの女と比べて、私が劣ってるところはこの不運以外何一つない!」
既に空っぽになった紙コップをグニュッと潰す。確かに塩谷教授には色仕掛けできなかっただろうな。でも、セクハラもされなかったはずだし。胸が小さかったのを不運というならそうかもだけど。
「不倫がバレたら大学追い出されかねないし、彼女は入間教授に学部長になってもらわないと困ったはずよ」
そうだとしても、殺しまでやるかなあ。あ、でも共犯者は有り得るかも。
「それに、彼女には前科がある……」
少しトーンを落とした声、でもその内容に僕は素で驚いた。
「ぜ、前科って、どういうことですか!?」
僕の驚き方に面食らったのか、彼女は唇を変な形に曲げ、ため息を一つ吐いた。
「そう驚かないでよ。前科って言っても犯罪ではないから。人のモノ、つまり旦那さんや恋人を取るってこと。そういう才能だけはあるのよ、あの女は。あ、私の彼氏を取られたってわけじゃないからね。彼女が学生時代の話で、私も人づてに聞いただけだから」
と、軽く受け流した。そうか、つまり彼女は人の彼氏を横取りする趣味があったと。
「そんなことより……君のナイト君、私が君にメールを送ったと言うのよね。あの、5時半のメール」
「そうなんですか? あ……でも」
竜崎はメールを送った人は殺人犯じゃないって言ってたな。
「それをはっきり警察に言った方がいいって言うのよ」
「ああ、はい」
土屋さんはそこでまた、一つ息を吐く。少々喚き疲れたのか、声も小さくなっていた。
「メールを送った時は、既に教授は殺されてたって刑事は知ってるはずだって」
えっ! なにそれ。竜崎はそんなことまでわかってるわけ?
「そ、それって本当なんですか? その時間、教授はもう……」
「知らないわよ! メールを送ったのは私じゃないからっ」
その引っ掛けには乗らないとでもばかりに、土屋さんは間髪入れず否定した。
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