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File No. 17 アリバイ
しおりを挟む「竜崎凄いよ。なんかドラマに出てくる名探偵みたいだった。冷静だし、オーデコロンとかスマホとか、僕、あわあわしてて全く気付かなかった」
ようやく今日のところは帰っていいと言われ、僕らは帰路についた。もう深夜だよ。途中自販機でドリンクは補充できたけど腹ペコな僕らはとりあえずコンビニに向かってる。
「いや、大袈裟だな」
僕は色々なことが混ざり合って興奮してた。竜崎のカッコ良さに感動して、それをそのまままくし立てたんだけど、これもまた冷静にいなされてしまった。
「スマートフォンのことは鑑識なら当然やることだよ。刑事が言ったとおり外も中も。でも、ああ言う事で、結果を俺らに話す確率が高くなったと思う。彼らにとっては可能性の一つに過ぎなくても俺らにとっては大事な証拠になり得るから」
5時半に着信したメールのことだろうか。確かにあれが犯人が送ったのだとすれば、僕らの疑いは晴れそうだ。
「藍も思ってるんじゃない? あのメール、教授からにしては変だって」
「あ……」
凄い。竜崎はそんなこともお見通しだったのか。実は僕も刑事に見せた時、改めて文章を読んで『あれ』って思ったんだ。最初見た時は嫌すぎてちゃんと読んでなかった。
「そうなんだ。教授は僕のバイトが6時までなのは知ってたはずなんだ。きしょいけど……。だから、呼び出しは『6時過ぎ』になってた。それなのに、今日……もう昨日か、のメールは6時になってた。端折っただけと言われればそうだけど……教授らしくない気がする」
僕の言葉に竜崎は頷いた。
「教授を殺してすぐ、その人はメールをしたのかな。じゃあ、僕が来ることは知ってたわけだ。だとするとっ」
「焦るな。送信メールをたどればわかることだ。ま、確率から言えば低いけど」
竜崎はコンビニのドアを開けながら、僕の暴走を止めた。
「教授はあの時間、ゼミ室や教授の部屋に誰もいないようにしてたんだ。土屋さんによれば、そういうことは何度もあったから、少なくともゼミの連中は誰か来るのはわかってたんだろう」
「じゃあ……」
「ゼミ生は20人近くいるんだ。この情報は、知りたければそいつらからいくらでも取れるものなんだよ。先走っちゃだめだ」
竜崎は長い人差し指を僕の目の前で横に振った。うむ、確かに。そんな単純に考えちゃダメかも。
「でも警察は……きっと教授に目を付けられていた――僕みたいな――学生の仕業だって思っているのかも」
「それほど警察は馬鹿じゃないよ、藍。当然、そのあたりも調べるだろうけれど……。7月に学部長の選挙があるの知ってるか?」
「学部長? ああっ」
大学の各学部、例えば医学部、経済学部、僕らの所属する工学部等など、そこに一人ずつ学部長というのがいる。会社でいう、部長みたいなものかな。
管理職だし、権限も収入も普通の教授とは段違いだ。大学も准教授や教授といったピラミッド構造になっている。
「あ、そうか。工学部部長の木下教授が退任されるから……」
「そう。副部長の塩谷は当然、立候補する」
副部長は他に二人いるし、それ以外でも立候補はできる。
「警察もそこのところは無視できないだろう」
「大人の世界だ」
「え? はは。大人の世界といえば、あの教授、叩けば埃まみれになるほど色々ありそうだしな。ま、あまり神経質になるなってことだよ。死亡推定時刻がわかれば、藍のアリバイが完璧すぎるのがわかるさ」
竜崎はおにぎりを無造作に籠に放り込むと口角をツイっと上げた。僕を安心させてくれる細めた双眸に、なんだかまた胸が苦しくなる。
――――死亡推定時刻が6時を越えなければ、バイトに入ってた僕のアリバイは完璧だと思う。けど、竜崎は大丈夫なんだろうか。
カフェに来るまでは部屋にいたと言っていた。もちろん、竜崎に動機はないと思うけど。僕は少しだけ心配になった。
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