Campus・Case(キャンパス・ケース)番外編追加しました!

紫紺

文字の大きさ
10 / 113

File No. 9 訪問者

しおりを挟む

 土曜日は3日後だ。なんだかその日が刑執行日のように重く圧し掛かる。
 教授は僕のバイトの時間まで把握してるんだろうか。ちょうどその時間にはバイトが終わる。
 そう言えば、去年の秋口から、何度か教授がそのカフェにやってきていた。大学に近いから来ても不思議はないけど、安いチェーン店だし、僕のバイト時間に合わせて来てたのは明白。あからさま過ぎて怖かった。
 だから、彼のテーブルには先輩にお願いして行かないようにしてたんだ。

 ――――あの頃から、ずっと教授には見張られていたんだろうか……。

 僕は大きなため息をついた。4、50代というと、父親と同世代。僕は恐らく、あの年代の男性は特に苦手なんだと思う。

「藍、おーい。いるんだろう?」

 不意に玄関ドアを叩く音。ドアチャイムは故障して去年から鳴らないが、不自由はしていなかった。
 けどバスドラムのように響くその声に、聴き覚えはあっても僕は驚いた。今まで、ここには来たことがなかったから。

「竜崎……どうしたの?」

 開けないわけにはいかない。僕は鏡で涙の跡がついてないのを確かめてから、ドアを開けた。竜崎はコンビニの袋を手に、口角をふいっと上げる。僕の胸はまた、正直な音を立てた。

「具合悪いのに押しかけて悪い。でも、午後は休講になったしさ。差し入れ持って来たよ」

 竜崎はこの部屋に来たことはなかったが、場所は知っていた。新入生の時、このアパートは彼の候補の一つだった。僕が住んでるのを知り、『俺もそこにしとけばよかった』なんて、社交辞令なのか言っていたのを思い出す。

「ありがとう。助かるよ」

 差し入れはお腹に優しいプリンやカステラ。それに胃腸薬まで入っていた。なんだか鼻の頭がツンとする。涙腺が弱くなってて、また泣けてきそうだ。

「水分摂るのも大事だから。スポドリもあるぞ」

 部屋に入るなり、竜崎はスポーツドリンクを2本取り出し1本を僕に差し出す。それから自分用の分の蓋を開けてごくごくと飲みだした。

「うん、いただく」

 僕も同じようにして喉に流し込む。泣いたせいか、喉が渇いていた。

「それで……腹が痛くなった理由は、変なもの食べたせいじゃないんだろ?」

 狭い部屋。ソファーなんて上等なものはない。どこかの景品でもらったクッションの上で、竜崎は胡坐をかいた。長い脚を持て余しているのが見て取れた。

「う……ん。多分」

 僕は勉強用の椅子から座布団を取り、同じように床に座る。もう虚勢を張る元気もなかった。

「俺じゃあ役に立たないかもしれないが……話してみるだけでどうだ? 少しは気が楽になるんじゃないか。なんかいい対応策が浮かぶかもしれんぞ?」

 僕の身になにが起こっているのか。おそらく竜崎は見当もつかないでいる。それでもなんとか力になれないかと心を砕いてくれているんだ。僕はそれだけでもありがたくて。

 ――――やっぱり、最初から戦わなきゃいけなかったんだ。教授の性根は腐ってるけど、僕がもっと毅然としてれば、きっとこんなことでうだうだせずに済んだんだ。

「あのさ、藍、もし違ってたらごめん」

 だからこそ、自分で解決しなくちゃ。竜崎を巻き込んじゃ駄目だ。そう思いかけた時だった。

「え?」
「藍が困ってるのって、もしかして塩谷教授絡みじゃないか?」

 すぐには声が出なかった。口だけはポカンと開けたんだけど、音にならなかった。

「あれ、違う?」
「な、なんで……」

 数秒経ってから、僕はようやく喉から声を取り出した。自分の声じゃないみたいな高音。

「なんでわかったの? し、知ってたの!? 竜崎……」

 僕はわかりやすく取り乱した。思わず竜崎に食ってかかる形相で。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

不器用に惹かれる

タッター
BL
月影暖季は人見知りだ。そのせいで高校に入って二年続けて友達作りに失敗した。 といってもまだ二年生になって一ヶ月しか経っていないが、悲観が止まらない。 それは一年まともに誰とも喋らなかったせいで人見知りが悪化したから。また、一年の時に起こったある出来事がダメ押しとなって見事にこじらせたから。 怖い。それでも友達が欲しい……。 どうするどうすると焦っていれば、なぜか苦手な男が声をかけてくるようになった。 文武両道にいつも微笑みを浮かべていて、物腰も声色も優しい見た目も爽やかイケメンな王子様みたいな男、夜宮。クラスは別だ。 一年生の頃、同じクラスだった時にはほとんど喋らず、あの日以降は一言も喋ったことがなかったのにどうして急に二年になってお昼を誘ってくるようになったのか。 それだけじゃない。月影君月影君と月影攻撃が止まない。 にこにことした笑顔になんとか愛想笑いを返し続けるも、どこか夜宮の様子がおかしいことに気づいていく。 そうして夜宮を知れば知るほどーー

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

処理中です...