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File No. 9 訪問者
しおりを挟む土曜日は3日後だ。なんだかその日が刑執行日のように重く圧し掛かる。
教授は僕のバイトの時間まで把握してるんだろうか。ちょうどその時間にはバイトが終わる。
そう言えば、去年の秋口から、何度か教授がそのカフェにやってきていた。大学に近いから来ても不思議はないけど、安いチェーン店だし、僕のバイト時間に合わせて来てたのは明白。あからさま過ぎて怖かった。
だから、彼のテーブルには先輩にお願いして行かないようにしてたんだ。
――――あの頃から、ずっと教授には見張られていたんだろうか……。
僕は大きなため息をついた。4、50代というと、父親と同世代。僕は恐らく、あの年代の男性は特に苦手なんだと思う。
「藍、おーい。いるんだろう?」
不意に玄関ドアを叩く音。ドアチャイムは故障して去年から鳴らないが、不自由はしていなかった。
けどバスドラムのように響くその声に、聴き覚えはあっても僕は驚いた。今まで、ここには来たことがなかったから。
「竜崎……どうしたの?」
開けないわけにはいかない。僕は鏡で涙の跡がついてないのを確かめてから、ドアを開けた。竜崎はコンビニの袋を手に、口角をふいっと上げる。僕の胸はまた、正直な音を立てた。
「具合悪いのに押しかけて悪い。でも、午後は休講になったしさ。差し入れ持って来たよ」
竜崎はこの部屋に来たことはなかったが、場所は知っていた。新入生の時、このアパートは彼の候補の一つだった。僕が住んでるのを知り、『俺もそこにしとけばよかった』なんて、社交辞令なのか言っていたのを思い出す。
「ありがとう。助かるよ」
差し入れはお腹に優しいプリンやカステラ。それに胃腸薬まで入っていた。なんだか鼻の頭がツンとする。涙腺が弱くなってて、また泣けてきそうだ。
「水分摂るのも大事だから。スポドリもあるぞ」
部屋に入るなり、竜崎はスポーツドリンクを2本取り出し1本を僕に差し出す。それから自分用の分の蓋を開けてごくごくと飲みだした。
「うん、いただく」
僕も同じようにして喉に流し込む。泣いたせいか、喉が渇いていた。
「それで……腹が痛くなった理由は、変なもの食べたせいじゃないんだろ?」
狭い部屋。ソファーなんて上等なものはない。どこかの景品でもらったクッションの上で、竜崎は胡坐をかいた。長い脚を持て余しているのが見て取れた。
「う……ん。多分」
僕は勉強用の椅子から座布団を取り、同じように床に座る。もう虚勢を張る元気もなかった。
「俺じゃあ役に立たないかもしれないが……話してみるだけでどうだ? 少しは気が楽になるんじゃないか。なんかいい対応策が浮かぶかもしれんぞ?」
僕の身になにが起こっているのか。おそらく竜崎は見当もつかないでいる。それでもなんとか力になれないかと心を砕いてくれているんだ。僕はそれだけでもありがたくて。
――――やっぱり、最初から戦わなきゃいけなかったんだ。教授の性根は腐ってるけど、僕がもっと毅然としてれば、きっとこんなことでうだうだせずに済んだんだ。
「あのさ、藍、もし違ってたらごめん」
だからこそ、自分で解決しなくちゃ。竜崎を巻き込んじゃ駄目だ。そう思いかけた時だった。
「え?」
「藍が困ってるのって、もしかして塩谷教授絡みじゃないか?」
すぐには声が出なかった。口だけはポカンと開けたんだけど、音にならなかった。
「あれ、違う?」
「な、なんで……」
数秒経ってから、僕はようやく喉から声を取り出した。自分の声じゃないみたいな高音。
「なんでわかったの? し、知ってたの!? 竜崎……」
僕はわかりやすく取り乱した。思わず竜崎に食ってかかる形相で。
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