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File No. 5 悪夢
しおりを挟む「いい勉強になったよ。また誘うからね。わかってるだろうけど、呼び出しには応じるようにね」
満足そうに言う塩谷教授の言葉を背に受けながら、僕は逃げるように部屋を出た。あの後、僕は自分の無実を証明しようと、パソコンのマウスを操作した。
教授が示した箇所を生成AIで試しても、僕のレポートとは全く同じにならない。そりゃそうだ。AIとは仮説も違うし、そもそもこいつは実験をしていない。
『あれ。本当だねえ』
なんて言いながら、教授は僕が持つマウスの上から手を置き、ぎゅっと握ってくる。手を放そうと試みても、指まで絡めてくるんだ。ようやく離したと思ったら今度は肩を抱いてきた。
『教授、やめてもらえませんか』
いくらなんでもやり過ぎだろう。僕は強い調子でそう言った。でも……。
『ああ、でもさ。これ、私の一存でボツに出来るんだよ。君、来期は私の授業
受けないからって逃げれると思ってんの?』
なんと……はっきりと脅してきた。どこかの小説か漫画で読んだことのあるような信じられない事態。
『そんな……』
『心配しなくても、そんな酷いことはしないよ。私が君を気に入ってたこと知ってただろ? それなのに、つれないよねえ』
ぐいぐいと僕の体を自分の方へと寄せてくる。ジムで鍛えてるだけあって、力が強い。それだけじゃなく、僕はこの男の言い草に『有り得ない』と思いながらも、もしそうなったらどうしようって怯えてるんだ。
単位一つ落としたくらいで、死ぬわけじゃない。まして進級できないわけじゃない。ただ、もう1年、こいつの授業を取らないといけなくなるのは嫌すぎた。
『私が呼び出した時だけ来てくれたらいいんだ。食事なんかもいいよね。イタリアンのいい店知ってるんだ』
頭の中で色んなことがぐるぐるしてくる。それが、この嫌なオーデコロンの匂いでより気持ち悪く混ざっていく。とにかくここから抜け出したい。
『レポートは成績を付けてもらえるんでしょうか』
僕は震える声でそう尋ねた。とにかくその答えだけは聞きたい。
『もちろん。私の頼みを聞いてくれたらだけどね』
僕は頷くしかなかった。教授が最後まで空欄だった僕の成績表にBを付け、事務局に送信したのを見届け、僕はそそくさとソファーから腰を浮かせる。
『ちょっと待った。約束だよ』
ぐいっと肩を持ち、何をするのかと思ったら……。
『怯えてるところがまた、何とも言えんね』
耳元でそう小声で言うと、耳朶にキスをされた。背筋に芋虫でも這ったような悪寒がし、全身に鳥肌が立った。
また誘うなんていう言葉が体に絡みついてくる。気持ち悪くて、それを必死に振りほどくようにキャンパスを走った。
――――吐きそう……。
口を右手で抑えながら、僕は今起きたことがまるで悪夢のようで事実と信じられなかった。大学で、しかも男子学生の僕がこんな目に合うなんて。
いや、それよりも。
なんの抵抗も出来ずに言いなりになった自分が情けなくて悔しくて、恥ずかしかった。僕はキャンパスに植えられた大きなポプラの木の陰で、思わず流れ出た涙を拭った。
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