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第8章
その8
しおりを挟む坂上政永が直々に問いだした際、今泉は何故そんなことを聞くのかと憮然とした。言い淀む様子を見て、政永は重ねて問う。強く、決して言い逃れは出来ないと圧をかけて。今泉は仕方なさそうに応じた。
『嫡男派の粘り強い交渉でこちらも焦っていた。篠宮は金にも色にも権力にも靡かない厄介な奴だったからな。急所はどこかと探ったまでだ。ちょうどよく、あの鬱陶しい橘の娘だったし、これで二人の動きを止められると踏んだ。それは大当たりだったな。自死に見せかけて殺す手もあったが、武家の女なら自ら選ぶ。まあ、筋書き通りに事は運んだ』
片山の手を借り、二人を誘き出した。要を絡めたのは、彼もまた、今泉にとって面倒な相手だったからだ。三人の急所が佳乃だった。ごろつき侍どもが殺されたのは誤算だったが、こっちも口封じの手間が省けたと今泉は嘯いた。
ガタガタと床が震えている。小刻みな音に紫音はハッとして隼を見た。震えが止まらない。膝だけでなく体中が震えている。それを止めようとしているのか、両手で自身の腿あたりの袴を握りしめている。
「ハヤさん、落ち着いて……」
「触るなっ! 私に、私に触れるなっ!」
払う右手が紫音の目の先を走った。駆け寄ろうとした紫音はそこで再び膝をつく。怒りだろうか。結われた髪が逆立っている。
――――あっ……。
膝に涙がぼたぼたと落ちていく。瞬く間に真新しい袴が濡れていった。
――――ハヤさん……。
紫音は隼のそばに寄ることを許されなかった。じっと、黙ったまま時が過ぎるのを待っていた。
――ギシッ――
どのくらい経っただろう。広縁の床がきしむ音がした。見上げると、隼が立ち上がっていた。
無言のまま沓脱石に下り、庭に出る。すたすたと歩いていってしまうので、紫音は慌てて後を追った。池の前に立ち、構えをとると静かに刀を抜く。それから一心不乱、縦横無尽に振り始めた。
あの夜光明寺の竹林で見た、鬼気迫る剣術よりももっと恐ろしくもっと鋭い剣先が光る。その先に憎むべき標的が見えていたのかのように。
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