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第7章
その3
しおりを挟む「おまえら何者だ!?」
いかにも侵入者然とした隼の浪人姿を見とがめた連中が二人に向けて刀を抜く。隼も要も躊躇しなかった。一斉に刀を抜き、力づくで先を急いだ。
腕に自慢の二人だ。間違いなく前田藩でナンバーワンとツー。今泉が財をはたいて雇った傭兵であっても敵じゃない。電光石火で駆け抜けていく。
しかし、やみくもに内部へと進むうち、右往左往していた連中が目標を得たとばかりにどんどん二人に集まってきた。このままではさすがに荷が重い。隼が立ちはだかる剣客を払ったとき、黒い影が視線を横切った。
――――紫音かっ?
目の端でとらえた黒装束の髪の長い男。束ねた髪に見覚えがあった。
「隼! 何してる!」
気を取られた一瞬、多勢に無勢の連中が隼に殺到した。――ち、面倒だな――と数多の刃を一気に撥ね退けた途端、部屋中を眩い光が席捲した。
「うわっ! なんだ!」
隼も要も、そこにいた武士たちが全員目を覆う、瞬間、隼の手首をつかむものがいた。
「ハヤさん、なにしてんの、こっちだよ!」
「紫音!?」
覚えのある声、匂い、感触、隼は迷わずその腕に導かれる。ついでにそこらにいた要の腕もぐいと掴んで紫音の後を追った。
「おまえを助けに来たんだ」
「ああ、それは信じるけどさ」
「けどなんだ」
「助けられてるし……」
「なんだとっ!」
「おい、痴話げんかしてる場合かっ。じき術が解けるぞ」
目くらましは術というか何かを投げたようだが、それもいつまでも効くわけではない。要はもっともなことを言う。紫音は肩をそびやかし、なおも先を急いだ。
「ふふ、ハヤさんたちが上で大騒ぎしてくれたおかげで俺たち見つけたんだ。今夜失敗したらどうなるかわかんなかったから、助かったよ」
「え? おまえ、何を……」
「ここだよっ」
屋敷の中はまるで迷路のようになっていたが、たぶん中央あたりだろう、ただの茶室に見える部屋にたどり着いた。見張りだったのか、二人の侍が床に伸びているのを横目になかへ入る。紫音はその部屋の畳の一つををふわりと上げた。
「あ……これは……」
真ん中にぽっかりと穴が開き、隠し階段が現れた。
「地下か……」
――――そうか、だからあの築山……あれは掘り返した土を盛ったんだ。
庭の造形として設えられる築山は、石、砂、土などを持って作られる。そこに登って月を見るわけだから、当然固く踏み固められているはずが、どこか頼りなく、また湿って感じた。あれは月を見るものではなかった。掘った土をあそに盛ったのだ。
「狭いから気を付けて」
紫音に続いて階段を下りる。三畳ほどの空間だろうか。そこには、千両箱と三味線が数挺置かれていた。
「紫音、隼、早く出てこい。誰か来るっ!」
要の鬼気迫る声に、隼はとっさに三味線を一つ握り、慌てて畳から顔を出した。
「あっ!」
入り口で詰まっていると、紫音は器用に前から飛び出た。
「おまえたち、一体何の真似だ。一条殿、説明してもらおうか」
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