偽夫婦お家騒動始末記

紫紺

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第6章

その5

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「そのうち慣れる。話を進めろ、紫音」

 口ではつっけんどんに言うが、隼とて心配していないわけでない。だが、要が心配する様には素直に受け取れない己がいた。おまえに心配されたくない。そんな張っても仕方ない意地が顔を出す。

「ん。俺の仲間が調べたところでは、あの別邸で薬の精製が行われてるみたい。その後のことはまだわかんないけど、梅津藩では開拓できなかったお得意様ができたんじゃない? 今泉はその辺、商才があったんだろうね」

 今泉が江戸でどのような営業をしたのか知らないが、それは大口の客だろう。得た財で人の心を買い、買えない権力は薬で奪った。

「言われてみれば……私があいつの別邸を張っていた時、商人風の男が出入りしていたのを見かけた。いつも裏門からだったから、御用聞きかと思っていたが……」
「一概には言えないけど、お客様だったかもね。表からは入れない」

 ――――そうか……私は一年もの間、何を見てきたんだ。なんと間抜けな……。

「そんな気にしなくていいよ。言ったろ。餅は餅屋って」

 慰められてるのはわかるが、なぜか素直になれない。隼はムッとした表情を返したが、その様子を要が面白がる。

「おいおい、おまえたち、本当に偽夫婦なのか?」
「な、なに言い出すんだ。そうに決まってるだろ」

 慌てる隼に紫音は嬉しそうだ。それがなおも隼を苛立たせた。

「あ、ねえハヤさん。その商人たち、帰りになにか持ってなかった? 荷物とか」
「え? 知らねえよ」

 まだ機嫌が直らない隼は、慣れないべらんめえ口調で答える。

「よく思い出してよ。大事なことなんだよ」

 そうまで言われ、隼はもう一度考え直す。目立った動きがあれば覚えてるはずだが。

「商人ではないが……三味線を抱えた女を見たこともあった。奥方でも習っているのだと思っていたが……その割には、冬にはもう見かけなかったな」

 ようやく絞り出した記憶を口にする。秋口には幾度か見かけたが、その後ぱたりと見なくなり、今の今まで忘れていた。

「三味線か……それ、いいかも。今頃ちょうど出入りし始めたかもね」

 きらりと紫音の瞳が光る。

「まさか、それが荷を運ぶ手段なのか?」

 要が膝を乗り出したところで、隼もそれと気づく。

「そんな小さなものなのか……」
「匙一杯も服用すればヤバイ薬だ。三味線の胴に詰めれば、相当な量だし金額になるよ」

 通っていた師匠風の女は、三味線を長袋に入れて出入りしていた。屋敷から出てきた様子におかしな点はなかったが、秋口に限って見かけていたのは思えば変な話だ。

「これは夜が楽しみだ」

 三人は、頭を寄せて今夜の張り込みの手はずを整える。紫音は放っておいてくれと言うが、隼が断固として許さない。

「見くびられたもんだなあ」

 なんて言いながら、実際は心配されているのに満更でもなさそうだ。お互いの役割を決めたことで一旦解散となった。



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