偽夫婦お家騒動始末記

紫紺

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第2章

その6

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「佳乃! 佳乃!」

 何もかもを放り投げて、隼は走り抜けた。前田城から自分の屋敷まで、いつもなら四半時ほどかかるところを、ものの数分で駆け抜けた。それでも、隼は足がもつれ、走っても走ってもたどり着けないもどかしさに頭が狂いそうだった。

『奥方様が、大変でございます。すぐにお屋敷にお戻りくださいっ』

 真っ青な顔をした義父の家臣は、隼に縋るようにして言った。どう大変なのか、聞く間も惜しみ、隼は屋敷に向かったのだ。

 ようやくたどり着いた篠宮家の屋敷。だが屋敷内の空気は、今まで感じたことのない張りつめたものになっていた。隼の顔を見ると、家の者の全てが道を開け、佳乃がいるであろう部屋へと導いた。
 襖の前には、佳乃の輿入れ時からついてきた侍女が座っている。茫然とし、汗だくで駆けてきた隼を見上げた。隼はその視線を振りほどき、襖に手をかける。

「佳乃っ! 何があった!?」

 開け放たれた襖の向こう、隼の目に飛び込んできたのは、白いばかりの布団に寝かされた佳乃の姿だった。白い肌はなお一層、白く美しい。いつもはきちんと結われた黒髪が、布団の上に長く揺蕩っていた。
 隼はふらふらと佳乃のそばに膝をつく。

「どうしたのだ? 寝ているのか? 佳乃?」

 かすれた声、抱き起そうと布団を捲り息を呑んだ。白装束を纏った胸元は、真っ赤に染まっていた。

「う……うわあああっ! 嘘だ、嘘だ。佳乃、目を開けてくれ! 何故だーっ」

 佳乃は自らの手で命を絶っていた。隼が肩を抱き、揺らし、声をかけようとも、佳乃の麗しい宝玉のような瞳は開くことはない。力のない人形のように、ただ隼の腕の中で揺れるだけだった。



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